ゴーストライター : 映画評論・批評

ゴーストライター

劇場公開日 2011年8月27日
2011年8月16日更新 2011年8月27日よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー

びくつく主人公と泰然自若の語り。映画らしい映画を久々に見た

ゴーストライター」を見て「マーフィの法則」を持ち出すのは強引だろうか。登場人物の宿命を虫眼鏡で無理やり拡大するようなものだろうか。それでも私は、あの<人生はいつもトホホ>とつぶやいているような理論を反射的に思い浮かべてしまう。

<失敗する可能性があるときは、きっと失敗する>という掟。あるいは、<トーストがテーブルから落ちるときは、バターを塗った面がかならず下になる>という法則。

ゴーストライター」の主人公(ユアン・マクレガー)も、この理論に支配されている。映画の序盤、ロンドンの出版社に顔を出した瞬間から、彼は情けない。見くだされ、恫喝され、腹を殴られ、前途多難を思わせる登場の仕方をするのだ。そして実際、彼にはヘマが多い。極端に小心とか臆病とかいうわけではないのだが、運の悪さがつきまとう。どう見ても幸運な人間ではないようだ。

そんな男が、回顧録執筆に手を貸した元英国首相(ピアース・ブロスナン)のトラブルに巻き込まれる。観察し、発見し、探偵の真似事をするうち、彼自身が危地に陥る。

監督のポランスキーは、しだいに高まる不穏な気配を、落ち着きはらった語り口で積み上げていく。鉛色の空と海。冬の小島の寂寞(せきばく)とした風景。右往左往するゴーストライターの不安をかきたてるかのように、元首相の周囲を取り巻く人々は、つぎつぎと不可解な行動に出る。不思議なタッチだ。サスペンスかと思えばコメディに見え、コメディかと思うとやはりスリラーなのだ。

といっても、観客はとまどわない。名無しの主人公は終始びくついているかもしれないが、ポランスキーの語りが泰然自若としているからだ。怖くておかしく、おかしくて緻密で、なおかつ不敵な余裕さえ感じさせるストーリーテリングの妙。映画らしい映画を久々に見たという満足感を、私は覚えている。

芝山幹郎

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