「斜陽」などの作品で知られる秋原正俊監督が、山寺宏一、岩田さゆりを主演に迎えて描く、ミステリー作品。
正直に言わせて頂けば、本文を書くのは時期尚早のように思えてならない。この場を借りて紹介させていただく以上、作品の魅力であったり、鑑賞するに値する要素を愛情込めて論じていく必要があると考えている。
だが・・残念である。この作品、どこをどのように切り取って考えてみても、高いお金を払ってでも観賞するべきとするポイントを見つけることが出来ない。私の感性が至らないためもあるだろう。しかし、これだけは明確に主張できる。
誰のために作られた映画なのか、分からないのだ。
地元の名士邸で発生した強盗殺人事件。その一件の捜査に乗り出した大学生探偵、伊地知。地道な推理を重ねるうちに浮かび上がってきたのは、天下の大泥棒、アルセーヌ・ルパンの存在だった。
この触れ込みは、十分に観客を呼び込む力を発揮している。だが、観客は冒頭から暗雲の中に叩き込まれる。肝心要の導入部の、テンポが悪い。暗い。台詞が聞き取れない。これは・・まずい。
そうは言っても、導入部。これからスピード感溢れるサスペンスの始まりを期待するが、最後までこの眠気を誘う間の悪さが貫かれる。加えて場を乱す無意味な手やら足、パンツのアップ。物語には何ら関係の無いテレビ中継シーンの長廻し。インパクトと意外性にばかり執着する作り手が招く、見事なまでの破綻がここにある。
岡山のご当地映画という面もある本作。では、きちんと岡山を魅力的に見せるかというと、エキストラをいかに多く映しこむかにご熱心のご様子。街頭スクリーンばかり見せ付けても、岡山県には何のメリットもない。「ああ、私映ってる~鏡で見るより綺麗かも」と喜ぶ地元住民の笑顔ばかり魅力的になっても、映画作品として役割を果たしているといえるのか。
山寺の張りの利いた美声以外は、往年の人気女優から演技経験皆無のお笑いタレントの掻き集めの如し。とても目も当てられない悲惨な三文芝居が涙を誘う。目の肥えた映画ファン、ルパンファンが呆気にとられる生気の無い制作陣の創意工夫こそが、これまで感じたことの無い強烈な違和感を生み出している。
「ご当地映画」としても、「サスペンス」としても、観客の目を喜ばせることを完全に諦めてしまった無味無臭の異色作としか論じようが無いのが悲しい。誰のために、この映画は向けられているのか。サスペンスファンか。ウド鈴木ファンか。誰か、答えを教えて欲しい次第である。