ハンナ : 映画評論・批評
2011年8月23日更新
2011年8月27日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
おとぎ話とアクションの融合。必要なのは頭のよい女優だった
「プライドと偏見」から「つぐない」を経て「ハンナ」に至る。面白い流れだと思う。ジョー・ライトが、実は女性映画の監督ではないからだ。
ライトはテクニシャンだ。職人的な資質にも恵まれている。出発点に文芸映画を選んだのは、古典的な情感と新鮮な技巧の対照を見せつけるためだったといえなくもない。原作から離れるのではなく、原作に密着したまま、原作とは別次元の映像を演出する。こういう大技を使える監督は、最近ではあまり見当たらない。同じ技巧派でも、アン・リーあたりとは体質がまったくちがう。
「ハンナ」の主人公ハンナを演じるのは「つぐない」のシアーシャ・ローナンだ。16歳のハンナはリーサル・ウェポンだ。銃器や爆薬を自在に操り、格闘技にすぐれ、数カ国語に通じている。
一方、ハンナを追う敵役のCIA局員マリッサに扮するのはケイト・ブランシェットだ。ふたりの女優は、骨格が似ている。感性や体質にも共通点がある。つまり、画面のなかでふたりの存在はたがいに響き合う。映画を見ながら私は、マリッサとハンナが実の母子ではないのだろうかと、俗悪な疑惑を抱いてしまった。
おとぎ話なら、そうであってもおかしくはない。実際、「ハンナ」にはおとぎ話の匂いが濃い。ハイテクの銃撃戦もたっぷり盛り込まれてはいるが、ハートのないアクション映画とは匂いがまったく異なる。そこで観客は思わず身を乗り出す。グリム童話からデビッド・リンチまで引用の多い映画だが、基礎にあるのはやはりライトの職人技だ。その技を存分に発揮するためにも、ライトは頭の切れる女優を必要とした。ブランシェットとローナンは期待によく応えている。
(芝山幹郎)