「スピルバーグの限界」戦火の馬 bashibaさんの映画レビュー(感想・評価)
スピルバーグの限界
スピルバーグにはやはり、ディズニーランド的な題材がうってつけなのだろうと思う。例えば、「激突!」、「ジョーズ」、「ジュラシック・パーク」など。これらの映画はまさにスピルバーグでなくては撮れない映画であった。優れた娯楽作であった。しかし、「カラー・パープル」、「アミスタッド」、「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」といった人間を描いた映画では様々な破綻が見え隠れする。映画を芸術として捉えた場合、事実をそのまま正確にリアルに描けば、それでいい、という訳ではないのだ。戦闘場面や暴力シーンを殊更、大袈裟に描けばいいという訳ではないのだ。そんなことをしたら、下劣で単純で思考力がゼロの、韓国映画と同じになってしまう。やはり、ある種の様式というのは絶対必要なのだ。今回の作品でも、ドイツ軍の兵士やフランス人の少女や老人がペラペラと英語を話し、相変わらず、ドイツ人は冷酷に描かれ、破傷風に罹っていた筈の馬はいつの間にか快癒し、そして、予定調和のハッピーエンディング、というご都合主義に貫かれているのだが、私が2.5という評価を与えたのは偏に馬の演技に拠るものである。この映画は1950年代に撮られていたら、それこそ、アカデミー賞を10部門以上、独占していたであろう。何故と言って、セシル・B・デミルの「史上最大のショウ」(1952)といった凡作や、ヴィンセント・ミネリの退屈なミュージカル、「恋の手ほどき」(1958)にアカデミー作品賞が与えられているのだから。この作品の一場面、一場面は1950年代の総天然色の活劇を思い起こさせる。ヒューマンドラマという分野に限って言えばスピルバーグはいまや時代遅れの監督になってしまっている。イーストウッドやウディ・アレンとは住んでいる世界がまるで違う監督なのだ。やはり、スピルバーグは永遠にディズニーランドの住人なのだ。