「馬の美しさに魅せられる」戦火の馬 DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
馬の美しさに魅せられる
スティブン スピルスバーグ監督、米英合作の映画「WAR HORSE」、邦題「戦火の馬」を観た。1982年に発表された英国作家、マイケル モルパーゴの小説を映画化した作品。早くもゴールデングローブに ノミネートされている。
ストーリーは
ところは イギリスのデボン地方。
石ころだらけの土地を開墾する貧しい農家。
15歳のアルバートは 父が農耕馬として買ってきた馬を見るなり その美しさに心を奪われた。父親のテッドもまた この馬の姿に魅かれて 競売に参加して競り合っているうちに 引っ込みがつかなくなって競り落としてきたのだった。テッドはお金のない農夫の身なのに 農耕馬の代わりに美しい競走馬を買ってしまったのだった。帰るなり、妻のエミリからは、足の細い競走馬に畑作業などできやしない、と叱咤され罵倒され、近所の農民達からは馬鹿にされ、領主からは 借金が増えるばかりだ と笑われる。
しかしアルバートは この若馬に ジョーィと名をつけて、心を込めて訓練を始める。親から引き離されたばかりの若馬ジョーィと、孤独な少年アルバートとの間には、やがて友情が芽生え、ジョーィはアルバートの言うことなら何でもわかるようになっていった。ジョーィは 家族の願いを聞き届けるように、農耕作業も懸命にやって、家族を助けた。
時は1914年。第1次世界大戦が始まる。デボンの街からも男達が率先して志願し戦争に出かけて行った。借金に苦しむ父親テッドは 高額で馬を買いたがっている騎馬隊に、ジョーィを売る決意をする。アルバートは 無二の親友ジョーィを取られるくらいなら、自分も騎馬隊に志願して戦地に行きたいと懇願するが、アルバートはまだ兵役に満たない年齢だった。ジョーィとの別れに嘆き悲しむアルバートにむかって、騎馬隊の隊長は 戦争に勝って必ず連れて帰るから、と説得する。アルバートは 父がボーア戦争に行ったときに 優秀な兵士として表彰され受け取った旗をジョーィのクツワにお守りとしてくくりつけて ジョーィを見送った。
しかし しばらくしてアルバートが受け取ったのは 騎馬隊長の描いたジョーィのスケッチ画と、隊長の戦死の知らせだった。すでに、兵役の年齢に達したアルバートは、入隊してジョーィを探そうと決意する。
戦場は過酷な状況だった。英仏とも、戦況は膠着状態で死者が増えるばかりだった。アルバートは 歩兵として突撃要員として、駆り出されて、、、、
というお話。
映画の最初に、上空からイギリスのデボン地方の映像が映される。どこまでも続く緑の豊かな穀倉地帯、放牧も盛んに行われていて、ところどころに農家が点在する。広がりのある 美しい絵葉書のような景観だ。やがて、カメラが地上に下り、牧場を映す。豊かな緑を背景に 走り回る馬の美しさ。馬の出産、赤子が立ち上がり、歩き出し、母親馬のあとを 飛びまわって跳ねる。愛らしい子馬。風を切り勇壮に走る競走馬。馬の筋肉の盛り上がり。細い足で土を蹴る後ろ足の力強さ。走る馬の その姿の美しさは例えようもない。
そんな美しい生き物が戦争に駆り出され、砲弾をかいくぐり 重い大砲を運び、騎馬隊として敵地に飛び込んでいく。
ジョーィが自由を求めて、鉄条網で体中傷だらけになって 重い木の柵を引きずりながら力つきるシーンや、ぬかるみの中を重い大砲を引く労役を強いられて足を折るシーンなど、胸がつぶれる思いだ。第1次大戦の まだ近代兵器が開発される前の戦争の残酷さ。肉弾戦の冷酷無比な様子は、見るのもつらい。
戦場の非情さが淡々と映像化されるが、しかし哀しいシーンばかりではない。フランス片田舎の少女が出てくる。両親を殺され 戦火に脅えながら、おじいさんと暮らしている。自分が見つけた美しい2頭の馬を 軍に取られまいとして 必死に自分の部屋に隠す。それを見守るおじいさんの優しさ。
自分の馬ジョーィを探すために 戦場に行ったアルバートのひたむきさが胸を打つ。戦争場面が残酷だが、デイズニー映画らしい終わり方をして、子供も大人も楽しめる映画に仕上がっている。そして、強い反戦へのメッセージが込められている。
かつて、世界大戦のために、オーストラリアから136000頭の馬が戦場に送られた、と記録されている。そして帰ってきたのは たった一頭だった。現在、戦争記念館には、一頭の生きて帰ってきた馬、サンデイーの像が建っている。なんという おびただしい犠牲だろう。人が始めた戦争のために、人を心から信頼している動物が利用されて残酷な扱いを受けて死ななければならなかった。改めて、動物達を駆り出していった戦争を憎む。
この映画を撮影するために オーストラリアのゴールドコーストから14頭の馬と、ゼリ ブレンという40歳の動物訓練士が海を渡ってハリウッドに行った。彼女は、戦争で犠牲になったオーストラリアの、136000頭の馬を代表して 映画作りを手伝ってきた と言っている。
良い映画だ。