劇場公開日 2012年3月2日

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「生き続ける。 その勇気。」戦火の馬 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生き続ける。 その勇気。

2021年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

幸せ

萌える

馬を通して描く戦争の物語。

監督は「勇気」を描きたかったという。
どんな”勇気”?
チキンレースと表裏一体にもなりかねないもの。
 ”英雄”と呼ばれたがって”勇気”ある行動で突っ走って死にゆく”勇気”?
いろんなエピソードが描かれる。
 戦争で人助けをして勲章をもらうも、それを捨て去ってしまう男。
 つい、セリで引けなくなり、大金をつぎ込んでしまう男。
 皆に「無理だ」と言われながらも、あきらめない少年。
 レジスタンスという勇気を見せて、最愛の幼子を一人残すことになる両親。
 「勇気がない」と孫娘になじられる老人。
そして、そして…。
 唐突に挟まれる伝書鳩のエピソード。
 「下では恐ろしいことが繰り広げられている。でも、(それには目もくれないで)ひたすら前を見て進む…(思い出し引用)」
 これも一種の”勇気”。
 目的のために、目的外のことには目もくれず…。
 老人が、愛しくて大切な孫娘を守るという目的だけに特化して、そのためなら「いくじなし」と言われようが、農作物を奪われようが耐え忍んだごとく…。
 何があっても、生き延びる”勇気”。
 何があっても、あきらめない”勇気”。
 明日を信じて、本来いるべき場所を目指す”勇気”。
 「生き延びたんだ。また会えるよ(思い出し引用)」胸がはりさけそうなつらいことに直面するも、それで終わりだとしない”勇気”。

原作は児童文学。から舞台劇となり、映画化された。
 (原作未読。舞台未鑑賞)
戦争の中の善意と、戦争のむごさが描かれる。
戦闘場面の壮絶さだけでなく、
容赦なく、使い捨てにされる馬・人間ー軍律違反者は”使える”者でも銃殺ーはもちろん、
「戦争はすべてを奪い去る。あきらめろ」という現実。
 (関係が深まりそうになると、サクッと関係が切れるのも戦時下ならでは。大尉の、ギュンター・ミヒャエル兄弟の、エミリの無常なその後。フリードリッヒ、ペーターのその後は語られていないが…)
騎馬戦・歩兵戦という人力から、だんだんと殺傷能力の高い銃器戦に移っていくさまが、圧倒的な迫力で迫ってくる。

とはいえ、あくまでベースが児童文学。PG12にもなっていない、全年齢鑑賞可能なG指定。
 目を背けるほどの残虐な映像は出てこない。
 ”善意”を示す人は固有名が与えられ、”悪意”を代表しているような立ち位置の兵士は名が出てこない。(大地主を除いては…息子との絡みがあるからか?)
 そして、全編英語。ドイツ人もフランス人も英語を話す。ー戸田奈津子さんが講演でおっしゃっていた。字幕が使えるのは日本くらいなんだそうだ。非識字者が多い国では字幕は意味をなさない。英語を母国語としない人々や幼児にも見てもらうためには、字幕を使わないで作るしかない。サスペンス等、言葉がわからないことが脚本・演出上必要な場合以外では。確かに、スペイン語の映画を英語字幕で見るときのおいてけぼり感…。日本語の吹き替えが皆日本語を話すのと一緒か。
 とにかく、たくさんの人・子どもに見てもらいたかったのだろう。

映像でも饒舌に語る。ー動く絵本かアニメのようだ。
 CGを駆使したか?と言いたくなるように演技をする馬たち。人間とジョーイの交流を描くだけでなく、馬同士の友情も篤い。
 グリム童話に出てきそうな村の景色。
 揺れる薄のような草原から、一転、騎馬兵という緩急。
 テントから覗く騎馬兵団。
 「勇気を!」と叫びながら、死を予感した大尉の表情(ヒドルストン氏好演!)。
 奇襲戦の決着。
 脱走兵士が見つかる場面の光と影。銃殺される場面。
 エミリーの初乗馬から一転する情景の見せ方。
 大砲の重さ。
 大砲の威力。それまでの戦いでは考えられない遠距離まで届く砲撃。
 それなのにの、雨でぐちゃぐちゃ、砲弾と銃弾雨の中の歩兵戦。
 毒ガスに包まれていくアンドリュー。
 逃げ回るジョーイの迫力。
 コリンとペーターの共同作業。青鼠色の澄んだ美しさ。
 救護シーン。粉雪が舞い、アースカラーの暖かさ。
 そして圧巻の『風と共に去りぬ』を彷彿とさせるオレンジ色の夕日と大地。
 テッド・ナラコットの、胸から上の堂々と焦点化されたアップ、丁寧に時間をとって描かれたラストシーンは何を意味するのか。
  (父と子の和解? 冒頭の父の軍役エピソードの回収? に込められたメッセージを深読みしてしまう)

脚本と演出もいい。
危機に陥ったかと思えば、こう来るかという展開。すべて綱渡りで、運次第なのだが飽きさせない。
緊迫した中での、ほどよいユーモア。
 ジョーイの調教。落馬。
 騎馬戦演習と三人の士官の掛け合い。
 ギュンター・ミヒャエル兄弟の掛け合い。
 エミリがしつけようとした柵越えの様子。
 フリードリッヒがトップソーンに名付けた名。
 飛び出てくる、何本ものペンチ(二人しかいないのにさ)。
 フライがバケツを差し出す様(マーサン氏か秀逸!)。
 エミリの祖父の競売~競売後のふるまい。
 etc。

第一次大戦を描き、世界戦争を描く。
だが、「帰還」をテーマとしてみると、これは過去の戦争のことだけを言っているのではないように見えてくる。
 今も、時折、ネットで拝見する、兵士の帰還に喜ぶ子どもの動画。
 USAでは、紛争地域に従軍させられる兵士がいる。その帰りを待ちわびている子どもたちがいる。
 日本でも、自衛隊員に起こりえること。
けっして、遠い昔の物語ではない。

親子で見ていただき、”勇気”について話し合ってほしい映画。

とみいじょん