モンガに散る : 映画評論・批評
2010年12月14日更新
2010年12月18日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
アート系の信念を持ちながら、エンタメ系の演出をサラリ
浅草と歌舞伎町をミックスしたような1980年代の台北・モンガ地区を舞台にした青春群像劇は、怒りに満ちた主人公のアップという、ある意味キラーショットから始まる。さすが、ホウ・シャオシェン監督の「風櫃の少年」など、台湾ヌーベルバーグの作品群に“出演”してきたニウ・チェンザーの監督作。とはいえ、近年は若者向けTVドラマのプロデュースや演出を手掛ける彼は、アイドル性の高いキャスティング、音楽とシンクロするカット割やハイスピード・カメラを使ったアクションなど、エンタメ性を目指した演出も忘れない。アート系の信念を持ちながら、エンタメ系の演出をサラリとこなす。それが人によって監督のマスターベーションにも見える従来の台湾青春映画との大きな違いであり、今年最大の観客動員記録を叩き出した理由だろう。
「友へ チング」のように、ケンカに明け暮れる高校生から、極道の世界に入った5人の若者の姿が描かれるなか、物語は気弱な転校生・モスキートの視点で展開する。だが、やはり目を引くのは、彼が憧れるモンク役で、台湾金馬賞(アカデミー賞)主演男優賞を受賞した、イーサン・ルアンの演技だろう。タイトルバックまでの疾走するオープニングなど、生き生きした彼らを捉えた前半パートがあまりに逸品だけに、チェンザー監督自ら演じるウルフなど、オトナの事情が絡み出す後半パートに失速感を覚えるのは否めない。とはいえ、141分の長尺を一気に見せてしまう力技はタダモノではない。
(くれい響)