劇場公開日 2012年11月2日

「奇策より必要なのは信じる心」のぼうの城 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0奇策より必要なのは信じる心

2012年11月30日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

興奮

現代風のポップなノリの時代劇を予想していたが、ちょっと意外。
往年の時代劇を彷彿とさせるような重厚さと、
現代風のライトな雰囲気を併せ持った映画だった。

野村萬斎、良いっすね!
剽軽でぽかんと明るいのぼう様はハマり役。
終始賑やかだが、時々黙って静かに怒りを燃やす時の眼は、何か底知れない深さがある。

で、そののぼう様率いる500人が、石田三成率いる豊臣軍2万人と対決する訳だが、
この石田三成の“天下人の戦”とやらがまぁ汚い。
多勢に無勢で圧しまくり、しかもそれを卑怯とも考えない。
おまけに自分の手柄の為には兵の事など気にもかけない。

それに対し、少数精鋭と結束力で挑むのぼう軍。
いくら何でもたった独りで門を守らせるのはどーかと思うものの、
佐藤浩市やぐっさん演じる豪将が敵をギッタギッタにする様はやっぱ楽しい!

しかしながら……
個性豊かな豪将が闘う姿は楽しいし見応えもあるのだが、
宣伝で奇策奇策と煽った割には、そういった策があまり登場しない。
ハイライトであるのぼう様の捨て身の策と、成宮寛貴演じる武将の序盤の策くらい?
も少し色んな策が出てくるのかなと期待してたせいか、そこは肩透かしを喰らった感がある。

これ、映画のせいというより、宣伝で『奇策』というフレーズを前面に押し出し過ぎたせいだと思います。
のぼう様に“剽軽な振りして実は策士”という印象を植え付けたのがそもそもの間違い。
だって、観た方なら分かる通り、のぼう様の魅力ってそこじゃないもの。

天下の豊臣軍を相手にして落城されずに済んだのは、
のぼう様があれこれ策を弄した結果では無く、仲間の力を信じ抜いた結果だった。
彼は愚直なまでに仲間を信頼し、尊重している。
家来や農民がのぼう様を慕う以前に、のぼう様自身が彼らを慕っているんだと思う。
だから、彼らの尊厳を傷付ける人間には情け容赦はしないし、
彼らを守る為なら何の躊躇も無く自分の命を捨てられる。

本作の石田三成のような、自分の為だけに結果を出そうとするリーダーに誰がついてくる?
ついていきたくなるリーダーってのは、仲間の力を信頼し、守ろうとしてくれる人ですよ。
その信頼に応えたい、こちらも相手を守りたいと思えるような、ね。
弱っちくて情けなくても、そういう点でのぼう様は最高のリーダーだった。

以上!
爽快感と僅かな苦みを兼ね備えた、見応えある時代劇でした。

<2012/11/11鑑賞>

浮遊きびなご