ザ・ロード : 映画評論・批評
2010年6月22日更新
2010年6月26日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
モーテンセンが纏うロマンティシズムと老いで魅せる、淡々とした終末譚
まるで少女に見える息子と世の終わりを旅するビゴ・モーテンセンというだけで、いかなる悲惨が存在しようとロマンティシズムが存在する。かすかな未来に息子を委ねるモーテンセンは、「イースタン・プロミス」以降の<老い>が茶渋のように画面に沈潜、慈愛のように画面に存在する。淡々とした終末譚。まあ、いってみれば、ホームレス・ロード・ムービーの体裁だが、世界のだれもが災厄によってホームレスとなり、食欲を満たすのは生き残った同類しかない。その辺りはさらと描くにとどめていて、父と子の小さなエピソードで映画は旅を綴る。
この映画を観たい!と強烈に感じた動機は次のようなものだ。まず、原作が「ノーカントリー」のコーマック・マッカーシーであること。ちなみに、マッカーシーの最高作「ブラッド・メリディアン」のビジュアルの参考になるのは、クリント・イーストウッドの「アウトロー」だ。
次に、DVDスルーとなったものの、荒涼と詩情の演出がすばらしかった「プロポジション 血の誓約」のジョン・ヒルコートが監督であること。そして、決定打といえるものが、ニック・ケイブ(+ウォーレン・エリス)が音楽担当ということ。これは「プロポジション」に続いての参加だが、彼の映画音楽のセンスは抜群だ。自分のパンクの出自はかけらも感じさせない。
「プロポジション」の主演、ガイ・ピアースも友情出演の形でラストをおいしく決める。デンゼル・ワシントン(「ザ・ウォーカー」)の姿をどこかに探し求めたのは、オレだけではないだろう。
(滝本誠)