「加藤武がいっぱい」インシテミル 7日間のデス・ゲーム 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
加藤武がいっぱい
市川昆監督の金田一耕助シリーズでは加藤武演じる名物キャラが毎回登場していた。
事あるごとに「よしッ、分かった!」と手を叩き、笑っちゃうほど単純な論理で的外れな犯人を指摘する、ヒゲの素敵な楽しい刑事さんである。
この手のキャラはミステリにはよく登場しますね。『名探偵コナン』の毛利小五郎とか。殺人などの陰鬱なテーマを扱う物語にユーモアを吹き込むキャラとして重宝されてるんだろう。
よもや本作の製作陣がこの手のキャラを登場させようとしたとは思わないが、実際この映画では“楽しくない加藤武”的キャラがわんさか登場してとても面倒臭い事になる。
彼らが披露する推理の底が浅い浅い。
事件現場に遅れてきたから犯人!
ミステリ好きだから犯人!
凶器を手に持っていたから犯人!
それだけの理由で人殺し扱いされちゃ堪らない。
藤原竜也は登場人物の中ではまだ思考がマトモな方だが、「人の命がかかってるんだ、もっとよく考えましょうよ!」という彼の至極真っ当な意見は皆から全力で無視される。というより、彼の意見はなぜかことごとく無視される。
『凶器を探す為に皆で各部屋を確認しよう』という提案は『犯人を刺激する』という理由で却下。『各人に配布された武器を見せ合えば』という提案も『互いの抑止力だから』という妙な理由で却下。
……きっと犯人を探す気が無いか、また誰かが死ぬのを待ってるんだろう。死人が出た方が物語が面白くなりますからねぇ(皮肉です、念の為)。
こりゃとても“心理ゲーム”と呼べる代物じゃない。
疑心暗鬼の恐ろしさや欲に駆られた人間の醜さみたいなものを描きたかったのだろうが、それを論じる前に、登場人物の思考が浅過ぎて少しも人間らしく見えない。
そういや序盤で「ここは世界の縮図です!」みたいな台詞があった。
もしも世界がこの映画みたいな人間の集まりだったら、人間はキューバ危機の頃あたりでとっくに絶滅していただろう。人類をナメるのも大概にしていただきたい。
10人中5人は演技が大袈裟過ぎるし、セットは安っぽいし、警備ロボットはグリコのお菓子に付いてそうな奴だし、正直褒める要素が殆んど見当たらないのだが、危険因子が全員居なくなる終盤は次の展開が予想しにくく、面白い。あとは暗く冷たい『棺桶室』のセットも良かった。
あとは……ええと……以上です。
最後に加藤武さん、勝手に引き合いに出してすみませんでした……。
<2010/10/23観賞>