「残念な改変」インフェルノ れーぶんさんの映画レビュー(感想・評価)
残念な改変
これまでの作品も、原作既読で鑑賞してきた。天使もダ・ヴィンチも面白かったと思う。もちろん残念な省略箇所もあったけれど、枠内におさめるためには仕方ないと思えたし、なにより、原作においてドラマに必要か?と思うヒロインとのロマンスが映画ではさっくり省かれていたのも、主題に集中させるためには非常に良かったと思う。
しかし今作は、省いてはいけないところを省き、原作にありもしないロマンスを突っ込んで、なんともお粗末なありがちエンタメになった気がする。もちろん、よくある三文エンタメとしてなら、原作との違いを楽しみはした。だから、単体の映画としては、まあ★3くらいつけてもいいかなと思う。
しかし…。
ここからは原作のネタバレなのでご注意。
とにかく残念なのは、シエナについてだ。
原作では、シエナは天才ゆえの孤独に苦しみ、自分について考えないために世界について考え、世界を救おうとして絶望し、ゾブリストという天才に出会って初めてこの世界に理解者と居場所を得る。
だが彼女は、ゾブリストの理念には共感しても、手段には愕然とし、原作では拡散を止めるため、そして政府やWHOにもウイルスを渡さず破棄するために(権力者に悪用されることを懸念してだ)、誰より先に辿り着こうとしているのである。
この設定をまるっきりなくしてしまった映画においては、シエナの魅力は半減どころではない。単なるイタい女という評もあながち間違ってないと思えるくらいだ。
ウイルスの性質については説明されず単なる殺人ウイルスみたいにしか見えないし(そんなもの使ってもカウントダウンを僅かに遅らせる役にしかたたない)、ゾブリストの残した動画の不気味さもまるっきり出ていない。
とにかくなんだかなな改変ばかりだった。
原作を読まずに見ればもう少し面白いのかもしれない。しかし私には、誰がなにでなんのために動いていて、どういう誤解があるか、描けているようには思えなかった。
ブリューダーとフェリスをひとまとめにしてブシャールという男にしたことや、大機構の総監(シムズ)が最前線に出てくるあたりの改変は、時短と明解さのためには悪くはない、仕方ないと思ったのだが…。
天使やダ・ヴィンチに比べて、説明しなければならないものが多すぎたのだろうか。
それに、トム・ハンクスの演技はいつもどおり良かったが、お体のたるたるゆるゆるぶりはさすがにちょっと気になるレベル。ラングドン教授、水泳さぼってましたね?て感じでw