ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ : インタビュー
若き日のジョン・レノンと彼の2人の母親の交流を描く青春ドラマ 「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」が11月5日より公開となる。音楽界のみならず全世界に多大な影響を与えた不世出の天才芸術家ジョン・レノンの若き日の葛藤と苦悩を見事に表現した主演のアーロン・ジョンソンに、町山智浩氏がインタビューを行った。(取材・文:町山智浩)
アーロン・ジョンソン インタビュー
「ジョン・レノンがどうして作られたかパズルを解くみたいな感じだった」
「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」で高校時代のジョン・レノンを演じるアーロン・ジョンソン(20歳)は、オーディションでこの役を勝ち取った。
「ビデオをさんざん見て、事前にジョン独特の声や癖を真似して練習しておいたんだ」
監督のサム・テイラー=ウッドは「ジョンが来た!」と思って、その場で彼に決定した。
「でも、僕は脚本を読むまでジョンについて何も知らなかった。5歳の頃に両親に捨てられて、叔母さんに育てられて、思春期に実の母親に会ったらすぐに母親が死んで……。そんな辛い体験からビートルズが生まれたなんてね」
アーロンと監督はジョンという人間を知るため、徹底的にリサーチした。
「たとえば昔の『ローリングストーン』誌に載ったインタビューは役に立った。そこでジョンは母のこと、叔母さんのこと、ヨーコのこと、ビートルズを去った理由などを2時間近く話したんだ。それでも、ジョンが彼の母と再会した頃のことはわかってないことも多い。ジョン・レノンがどうして作られたかパズルを解くみたいな感じだったよ」
ジョンは知的で保守的なミミ叔母さんとセクシーで自由奔放な実母ジュリアの間で、人格を形成していく。
「ジョンはルイス・キャロルが大好きで、優れた詩人で、画家でもあったけど、それはミミ叔母さんから受けた教養のおかげだ。でも、実の母のジュリアは彼に楽器とロックンロールを教えた。ジュリアと一緒にエルビス・プレスリーの映画を見て夢中になるんだ」
ジョンは母を愛するようにロックンロールを愛し、ポール・マッカートニーと出会ってバンドを始める。ところがその矢先に母は交通事故で死んでしまう。葬儀でジョンはやり場のない怒りをポールにぶつける。
「曲を使う許可をもらうためにポール・マッカートニーさんに映画を見せたら、『こんな風にジョンに殴られた記憶はないぞ』って言われちゃった。まあ、この映画はドキュメンタリーじゃないからね」
同じく、曲の使用許可をもらうためにオノ・ヨーコにも映画を見せた。
「ヨーコさんにジョンの演技についてお墨付きをもらったのは心強いよ。彼女はジョンにとって母親代わりの存在だったね」
ヨーコはジョンより7歳年上だった。そして、この映画の撮影当時19歳だったアーロンは、現場で23歳年上のテイラー・ウッド監督と親密になり、去年、2人の間に子どもが生まれた。
「ビートルズの歌で、どれが一番好き?」とアーロンに尋ねるとこう答えた。
「映画の中でジョンとポールが作る“In Spite of All the Danger(すべての危険を顧みず)”だね。あれはレノン=マッカートニーの最初の歌なんだ」
アーロンと監督は撮了の日、2人の腰に“In Spite of All the Danger”というタトゥーを半分ずつした。裸の腰を合わせるとひとつの文になる。
「ノーウェアボーイ」に続くアーロンの主演作は「キック・アス」。ニューヨークはブルックリンに住むオタク高校生がアメコミのヒーローになろうとするアクション・コメディだ。
「ジョンのリバプール訛りの次はニューヨーク訛りの役だから大変だった。面白いのはこの2本は結構よく似た話なんだよ。どちらの主人公も母を失くした貧しい少年で、学校では劣等生。でも、最後はスーパーヒーローになるんだ!」
今は「キック・アス2」の脚本を待っている状況だという。