劇場公開日 2010年11月5日

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ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ : 映画評論・批評

2010年11月2日更新

2010年11月5日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー

愛はときに苦悩をもたらすが、それでも人は愛がなければ生きていけない

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ジョン・レノンが“愛”を歌いつづけた理由がわかる青春映画の佳作だ。ジョンの実話が元だが、美術家出身の女流監督サム・テイラー=ウッドは、彼の異才ぶりをことさら描くことはしない(ファンには少々物足りないが……)。愛を求める少年のナイーブな心に焦点を当て、ジョン、実母ジュリア、養母ミミの個性と複雑な心の動きを繊細に体現した役者たちの好演で魅せる。冒頭「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」のイントロが鳴り、映画のように少年ジョンが走り、つまずいて目を覚ます。このオープニングに象徴されるよう、どこにも居場所がないと感じていた少年が、夢を見つけて邁進するが、愛を見失って挫折しかけるという誰にも通じる青春の日々が生き生きと綴られるのだ。

厳格な伯母に育てられ、息苦しさを感じていたジョンは、奔放な実母と再会し、ロックンロールとバンジョーの弾き方を教えられ、音楽の楽しさを知る。こうして仲間とバンドを組み、刺激し合えるポール・マッカートニーと出会い、演奏活動に夢中になっていくジョンの姿がごく自然に描かれ、共感を呼ぶ。

だが、その一方でジョンは、相反するふたりの母の間で心を引き裂かれそうになる。そこでジョンは真実を知ろうとし、養母も実母も彼の思いに応える。愛はときに苦悩をもたらすが、それでも人は愛がなければ生きていけない。表現は異なるが、ふたりの母がいかに自分を愛してくれていたかを知り、ジョンはさらなる一歩を踏み出せた。勇気を出して苦しみと真摯に向き合えば、未来は開ける。ラスト、“愛の力”を実感したジョンの養母への愛が成功への旅立ちと重なり、胸を打つ。

山口直樹

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