クリスマス・ストーリー : 映画評論・批評
2010年11月9日更新
2010年11月20日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
映画愛と生への愛を軽やかに突き合わせるデプレシャンならではの快作
監督アルノー・デプレシャンの04年作「キングス&クイーン」は、ヒロインの見守る中、まだ幼さの残る息子がファミリー・トゥリー=家系図を描く場面で幕を閉じた。光の中、穏やかに家族の樹の繁りをみつめる母子の時間。そこに至るまでにヒロインが掻い潜った疾風怒濤。それを新たな(しかし旧作のいくつかと興味深く結ばれた)系図の端々に用意して「クリスマス・ストーリー」は、どこまでも等価に輝くいく筋もの物語の糸を手繰り寄せる。淡々とした日常さえ“劇的淡々”として掴まえて監督デプレシャンが断固、展開する脱・等身大の物語。野心的で、しかし清潔な抒情を忘れてもいないその物語り方。突き進む個々の航路を迷いなく果敢に束ねる話術の溌剌とした勢いに魅了される。
脇役のいない神話にも似た家族の小宇宙は聖夜に向けて子供じみた小競り合い、悲劇と茶番が背中合わせの衝突と和解とを繰り返す。血の絆で結ばれた人と人との厄介なのに懐かしく、疎ましいのに涙ぐましい団居の時空は、影絵、手紙、独白、回想――と、開巻早々、盛り込まれる様式のめまぐるしい変化さえ味方につけて祝祭の領分へと踏み入っていく。難病、心の病、秘めたる恋。ジャズとラップとクラシック。シェークスピアとニーチェ。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」と「サラバンド」――。花火の硝煙の甘やかな匂いが家族再会の夜に染みる。そうしてイブ、ちらちら舞う雪がやがて世界を新しくするだろうう。奇跡とか魔法とか、いつもは封印しておきたい語彙にもついつい居場所を与えたくなる “本物の嘘”。映画愛と生への愛を軽やかに突き合わせるデプレシャンならではの快作をそれが逞しく支えている。
(川口敦子)