劇場公開日 2010年8月14日

「衣食住足りて礼節を知る・貧すれば鈍す・」キャタピラー Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0衣食住足りて礼節を知る・貧すれば鈍す・

2011年10月16日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

怖い

衣食住足りて礼節を知る・貧すれば鈍す・戦死の恐怖に怯え続ける極限状態の戦場の兵士は戦地で何に救いを求めるのだろうか?
人間と動物は紙一重・・・
戦争映画の大半の作品は、戦争反対と言う願いから制作されていると、戦争犯罪をテーマにする事が多い。
或いは、過去の戦争は、歴史の流れの中では、止められなかった負の遺産で、否定するものではないと言う、美談を探してきて描いている作品もある。
しかし、どちらも、どちらって言う思いで、只、哀しくて、どの戦争映画も気が滅入るのだ。
この久蔵も田舎育ちで、きっと戦争さえ無ければ、農業を生業として生涯を閉じていただろうに・・・
戦地の現実を知らない、若い田舎の純情青年が、ポンと戦地に放り込まれると、常に何時
殺されるか分からない恐怖にさらされる。
そして戦地ではきっと、日々餓えと、厳しい規律でガンジガラメ!軍隊では、DVも日常茶飯事だろうし、家族から孤立している淋しさもある、第二次世界大戦の末期は、今で数えるなら16、17歳位の少年も、戦地に送り出される。
当時は、国民全員が、軍国教育を受け洗脳状態にあったとしても、17歳や20代で、御国の為に死ねと言われても、建前では納得していても、死を目の前にすると、動物的本能で死を回避したくもなるだろう・・・
決してレイプを肯定するのでは無いが、現実は残酷で有ると言うことか・・・
必ず戦争では、犯罪が付き物である、軍人ばかりでは無い。
一般の人々も、戦地には行かず、留守の家庭を護っていた人達の中でも、DVを行う人や食糧などの強奪もあっただろうし、久蔵の弟の様に弱体者に対しては、いじめや、差別も沢山あっただろう。
引き上げ者や、沖縄では、親が子供を殺すと言う集団自決と言う事件?犯罪もある。
それら、総ての犯罪の根底にあるのが、戦争と言う巨大な魔物だ。
人間には理性的で、精神力、自制心の強い人間もいれば、弱い人間もいる。様々である。
スティーブン・ダルドリー監督の『愛を読むひと』と言う素晴らしい作品があったが、この映画では、戦後ドイツの戦争裁判で、現在の倫理観だけで戦争当時の犯罪の批判をしてはいけないと言う下りが有ったと記憶する。
その時にその人がどう言う動機で犯罪を行ったのか、その理由を明確にする事、犯罪者の意思がどのように働いていたかを検証するものだった。
例えば、ある兵士が戦地で敵兵を殺す。その行為は正当防衛か、上官命令か、それとも仲間の兵士が殺された事への復讐をしただけなのか?同じ殺人行為でも、その加害者となった兵士が戦後その自分の犯した行為について、一生涯、人生を閉じるまで忘れずに抱え込む負の遺産だから、その動機は本当に大切であるし、例え裁判や、廻りには誤魔化す事が可能であったとしても、自分自身には嘘をつく事は出来ない。だから、戦後に帰国してから、家族の元に帰還しても、苦しみ続けて、元の生活が出来なくなり、麻薬に溺れたり、ホームレスへと転落してしまうケースが多い。
私が3歳頃、御寺の縁日などお祭りの日には、手足を失った兵士が物乞いをしているのを見た記憶がある。
戦争の時代を生きた人々にとっては、その生涯を終わらせる日が来るまでは、終戦出来ないのかも知れない、いや、被爆2世3世と子孫の人々も未だ未だ戦争が終わった平和な生活とは言えないだろう。
本当に、争いの無い、平和な社会を願って止まない!
今日の日本もその犠牲の上にあるのだ。一人一人が人生を大切にして暮して行きたいものだ。
寺島しのぶの体当たり演技も必見の価値有りですね。ベルリン映画祭主演女優賞獲得の貫録が映画で味わえます。彼女の、国防婦人に成りきった、あの表情は凄かった。

ryuu topiann