「母と子(Mother & Child)」という直球な原題のとおり、「母性」に満ち満ちた作品だ。時にエゴ、時に残酷なまでの圧倒的な性(さが)に、たじろぐ男性もいるかもしれない。あのサミュエル・L・ジャクソンでさえ、小娘に「good boy」呼ばわりされてしまう。とかく本作品の男性陣は影が薄く、どこか居心地悪そうに見える。
ヒロインは三人。生き別れた母と娘に、望みながらも母になれず、養子縁組に望みを託す女性。ロドリゴ・ガルシア監督の語り口は、いつも通り物静かで、過剰さを極力排している。しかしながら、物語は次第に大きくうねり、ヒロインたちを思いがけない方向へ巻き込んでいく。
乱暴な言い方をしてしまえば、この映画は、14歳で子を産みながら母となれなかった女性が、実の娘という犠牲によって、50代にしてやっと母親になっていく物語だ。それぞれに孤独を抱え、気難しく・凛々しく生きていた母と娘の運命は、後半で明暗を分ける。周りとの繋がりをつかみ、家庭を手にした母の輝かんばかりの笑顔に、孤独を貫くことを決断した娘の面影が被る。娘の決断は、生まれ来る子どもにとって幸せなものだったと言えるのか? 母親にできることは、作品中で彼女がしたこと以外になかったのか? 行動を起こすのが遅すぎたのではないか? 観客として無邪気に浮かぶそれらの問いは、実際には相当に重い。若いヒロイン同様、「人の中に人がいた」者として、本当に身につまされた。
自分の立ち位置から、今という瞬間を見渡し生きるしかない私たちは、結局は小さく、非力だ。それでも女性たちは、圧倒的で掌握不可能な「母性」というものを手にし、格闘し、いつしか思いもよらぬ力を発揮する。そら恐ろしいと感じながらも、不可思議な未知の魅力にはあらがえない。後戻りはできないし、数々の失敗は避けられないかもしれない。それでも、だめな自分から逃げたり甘んじたりせず、やり直しを繰り返しながら前に進んでいきたい。改めて、そう思う。