長ぐつをはいたネコ : 映画評論・批評
2012年3月6日更新
2012年3月17日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
カッツェンバーグの思想がしっかりと反映された「シュレック」のスピンオフ
これまでのファミリーアニメが守ってきた良識という名の制約に「NO!」を突きつける。それがドリームワークス・アニメの醍醐味だ。その姿勢は、ディズニーを追われた製作者ジェフリー・カッツェンバーグが、「美女と野獣」へのアンチテーゼとして「シュレック」を作ったところから始まったという歴史も関係しているかもしれない。が、その背後にあるのは、観客の理解力への信頼、つまりは映画の力への信頼だろう。
今回、まずドリームワークスが挑戦したのは、異文化の表現。「シャーク・テイル」では魚類でブラック・カルチャーを描いたが、今回はネコたちでヒスパニック・カルチャーを描く。もともと「シュレック」のネコはラテン系ヒーロー、怪傑ゾロへのオマージュだった。人間の形を取り払えば、人種差別はない。従来のファミリーアニメが、登場人物の肌の色と衣装を変えても結局は同じ世界を描くのに比べて、このラジカルさ。踊りや音楽はもちろん、恋愛観や親子愛まで、ヒスパニック・カルチャー仕様になっている。
もうひとつの挑戦は、複雑なキャラ設定。「カンフー・パンダ2」ではゲイリー・オールドマンが声をあてた白孔雀の屈折ぶりに唸らされたが、今回のハンプティ・ダンプティはその上をいく複雑さ。完全な悪役でも完全な善玉でもない、まさにトリックスター的設定。声は「ハングオーバー」シリーズ4人組の太めキャラ、ザック・ガリフィアナキス。この微妙なキャラを子供には理解できないとは考えないところに、ドリームワークス・アニメの真髄がある。
製作総指揮としてギレルモ・デル・トロも参加。ハンプティ・ダンプティのキュートな部分には彼も貢献したと見た。
(平沢薫)