劇場公開日 2011年3月18日

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トゥルー・グリット : 映画評論・批評

2011年3月8日更新

2011年3月18日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー

「勇気ある追跡」をリメイクしつつ「狩人の夜」を引用する図太さ

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あの歌に、決まった邦題はあるのだろうか。「永遠(とわ)なる腕(かいな)に身をゆだね」とかなんとか、讃美歌風の題名がつけられているのだろうか。

不明にして、私は知らない。が、メロディは頭にこびりついている。いや、私だけではあるまい。「狩人の夜」(1955年)を見た人なら、Leaning on the everlasting arms のリフレインがいつまでも耳に残っているはずだ。

その曲が「トゥルー・グリット」でもくりかえし使われている。曲のみならず、星降る夜を背景にした横移動撮影も「狩人の夜」からの引用だ。「勇気ある追跡」をリメイクしながら、遠くにある映画にウィンクをしてみせるこの図太さ。遊んでいるな、コーエン兄弟。

トゥルー・グリット」は14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)の敵討ち物語だ。独力では無理と知ったマティは、酔いどれ保安官ルースター・コグバーン(ジェフ・ブリッジス)を雇って悪党に迫る。傍らには、別件で同じ悪党を追うテキサス・レインジャー(マット・デイモン)の姿もある。

それだけの話だが、コーエン兄弟はさすがに見せる。なによりも、巷談的な語り口を平然と採用しているのがふてぶてしい。デビッド・バーンが「ブルー・ベルベット」を歌うとこんな感じになるのかもしれないが、私は最初、よくできた古典的西部劇を見ているような錯覚に陥ったくらいだ。

しかしよく見ると、コーエン印の仕掛けは至るところに潜んでいる。荒野はとりつく島もないほど邪慳で、悪党はまったく陰翳を感じさせないくらい粗暴だ。そしてなおかつ、少女は不敵で抜け目ない性格を全開させて、保安官の腕のなかに身をゆだねる。

おお、そうか。「トゥルー・グリット」は、無慈悲なまでの荒々しさを画面に叩きつける一方で、不意打ちのようにダークな笑いを漏らしてみせるのか。ここは映画のツボだ。話が終わりに近づくにつれ、私は、「狩人の夜」の引用を不自然と思わなくなっていった。

芝山幹郎

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