劇場公開日 2010年2月19日

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恋するベーカリー : 映画評論・批評

2010年2月9日更新

2010年2月19日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

本能に忠実すぎる大人たちの性懲りもない愛の彷徨

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邦題に惑わされ、初老のキキが恋に揺れる“リアル魔女宅”的ロマンスを夢想していると、まさかの淫らさに驚かされる。実際、日本ではR15+指定。原題「It's Complicated=込み入った/理解しにくい」の通り、屈託なきラブコメには程遠い。恋愛に年齢不問という自己啓発的メッセージを読み取るのは自由でも、むしろ性懲りもない大人たちを溜め息まじりに笑いとばす方が健全だろう。

3人の子を育て上げたシングルマザーは、心と体が満たされず、再婚した元夫と“不倫”して愛が再燃するという前代未聞の展開へ。臆面もなくよりを戻す2人の駆け引きと貪るような老獪なSEXは大いに笑えるが、いくつになっても大人になりきれない性<さが>には軽いめまいを覚える。とはいえ、人生最終ステージに差し掛かり、元の鞘に収まることを笑いと涙で祝福する感覚は奇妙でありながらも、やれやれ、これでいいのだと言わしめる妙な説得力がある。

70年代から同時代の女性の生き様を体現してきたメリル・ストリープがヒロインを演じることで、重層的な意味がもたらされている。ここには、アメリカ映画が描いてきた夫婦関係のこんがらがった変容という時間軸がある。家庭よりも自立を重んじ、自我を優先してきた親たちの愛の彷徨は決して素敵なものじゃない。最大の犠牲者である子供達が唖然として見守る傍観者としてのみ描かれるのも、アラ還世代のナンシー・マイヤーズ監督が露悪的に自らをさらけ出し、どこまでも本能に忠実だからこそ。呆れつつ、ビバ・アメリカと呟くしかあるまい。

清水節

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