「人間の醜さと美しさ」悪人 Yukiさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の醜さと美しさ
2回目を鑑賞し終えて、改めて良い映画だったと実感。
人間って性善説か性悪説か、昔から議論されるテーマではあるが、そもそも善悪の定義なんて現代で成されたもので、時代や国が変われば定義も変わる。他のレビューで悪人は殺人を犯した祐一に決まってる的な内容も散見されるが、作者が問うているのはそんな表面的な内容では無く、もっと本質的なものでしょう。
出会い系サイトで知り合った女にバカにされ衝動で人を殺めた男、その男から愛を受け取り庇う女、殺された女を理不尽な理由で人気の無い山中に車から蹴落とし置き去りにする大学生、殺された女の父親はその大学生に怒りの暴力を振るおうとし、殺した男を育てた祖母は詐欺に逢って現金を騙し取られ、殺人犯の身内だとしてその祖母を執拗に追い回すマスコミ群。
人間は多面的な生き物であり、虫も殺さないような一見穏やかな人でも、心の中では何人も殺しているかもしれない。が、実行しなければ罪に問われる事は無い。誰しも大切な誰かを愛する心を持ち、同時に誰かに殺したい程の怒りを持つ事だってある。これは主人公の祐一と同質であり、実行したかしないかの差でしかない。もちろんその2つは天と地ほどの隔たりがあり、普通の感覚の持ち主であれば実行できない。実行した後に自身に降り掛かってくる現実が想像できるから。
殺人は罪だが、国家間の戦争になれば相手国の兵士を殺しても基本的には罪に問われない。平和を望む心を持つ人が、戦争に駆り出され否応無しに武器を持たされ、人を殺す事は悪なのか?愛する人が襲われそうになり、暴漢を殺したら悪なのか?愛する人が病気で苦しみもがいている時、もう楽にしてくれと懇願され実行するのは悪なのか?
鑑賞した後に、そんな事を色々と考えさせられた。
映像は暗く、静かで、美しく、どこまでも切ない。俳優陣の演技は皆素晴らしく中でも妻夫木聡と深津絵理の絡みは、胸が締め付けられるように切なくて涙が溢れてきた。特に後半、妻夫木聡が深津絵理の首を絞めるシーンは、愛する人を守る為に、唯一そんな方法しかなかった切なさに涙が止まらない印象的な場面だった。
故樹木希林や柄本明、岡田将生の演技も申し分なく、特に満島ひかりは完璧に尻軽女にしか見えなかった。
楽しい映画ではないが、深く考えさせられる、自分にとっては大切な素晴らしい作品の一つ。