最後の忠臣蔵 : インタビュー
役所広司、時代劇を世界へ発信する使命感と侍へのあこがれ
男の背中は、これほどまでに雄弁なものなのか。忠義、葛藤(かっとう)、決意、そして恋慕までも……。12月18日公開の「最後の忠臣蔵」で役所広司が演じた瀬尾孫左衛門の背中からは、あらゆる感情が読み取れる。大石内蔵助から重大な使命を受け、吉良邸討ち入りに加わらずに16年の隠とん生活を送った孫左衛門。「役割をどれだけできるかということばかりで、もう必死でした」と苦笑いで振り返る役所だが、その表情にはやりきったという充足感がみなぎっていた。(取材・文:鈴木元)
これまで数多くの映画やドラマが製作され、この季節の風物詩となっている忠臣蔵。役所もかつてドラマで堀部安兵衛を演じたことがあり、「もう十分やっただろう」という思いがあったが、「最後の忠臣蔵」は討ち入りのその後を描くという設定に興味をそそられたようだ。
「これだけ日本人に浸透した忠臣蔵のその後に、こういう物語があったことは全然知りませんでした。日本人だったら討ち入りまでの苦労は知っているから、生かされてしまった男たちのことも、恐らく理解してくれるなという気持ちがあったので、素直にこれは面白いなと思いましたね」
内蔵助の隠し子を守るという密命を帯び、討ち入り前夜に姿を消した孫左衛門。以来16年、ひっそりと身を隠しながら、その娘・可音を立派に育て上げる。
メガホンをとったのは、「北の国から」などのドラマで知られ、映画は「ラストソング」以来、16年ぶりとなる杉田成道監督。役所は2009年のドラマ「駅路」に続く出演で、「とにかく武士をやってくれ」と指示された以外、杉田監督は可音役に抜てきした桜庭ななみに付きっきりだったという。
「時代劇は初めて、着物を着たこともない桜庭さんが、杉田さんの愛のあるしごきで女優としてどんどん魅力的になっていきましたね。もともと明るくていい子なんですよ。でも、杉田さんに『へらへらするな』と怒られていましたから、なるべく可音さまの側には近寄らないようにしていました(笑)」
生き残りは、孫左衛門のほかにもう1人登場する。討ち入りの真実を後世に伝える役目を担った寺坂吉右衛門だ。演じたのは佐藤浩市。かつて無二の親友だった2人の邂逅(かいこう)によって、運命は大きくうねり始める。そのシーンは、大きな見どころのひとつだ。
日本映画界を代表する2人だが、06年「THE 有頂天ホテル」で1シーンだけ絡んだことはあるが、本格的な競演は意外にも初めて。佐藤に話題が及ぶと、役所もうれしそうに相好を崩す。
「刺激になるし、頼もしかったですよ。キタキタキターって(笑)。16年の苦労が分かるのは彼だけで、対じしたときに分かってくれる男が目の前にいるという感じ。佐藤浩市という役者が来て芝居をしていると、時代劇を撮っている、映画を撮っているという気がしましたね。空き時間は、競馬の話しかしていませんけれど」