「時をかける、迷子」時をかける少女 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
時をかける、迷子
次回作で女優、桐谷美鈴の主演作を手掛ける谷口正晃監督が、仲里依紗、中尾明慶を主演に迎えて描く、青春映画。
「君に届け」の監督で知られる熊澤直人の監督作に、「虹の女神」(06)がある。想い合いながらも互いに気持ちを隠していた一組の男女。女性が飛行機事故で命を落としたことをきっかけに、男性は女性が遺した一本の映画に触れる。喪失、哀愁、そして希望・・。恋愛のもどかしさと奇跡を丁寧に描ききった力作として、評価する声も多い。
さて、本作である。原田知世主演で公開された同名作品に対する答えとしての意味合いも色濃い作品となった。和子と、深町。過去に離ればなれになった男女は、未来でどうなったのか。現代最先端のCG技術とアニメーションを駆使して、軽快に、かつ感涙を誘う物語で観客を引き込んでいく。
と・・ここまでなら、観客の多くが「よくぞ、作ってくれました!」と拍手を送る映画愛に溢れた意欲作として認めたはずだ。だが、そうはいかない。この作品はあくまでも、安田成美が主演ではなく、仲がスタッフロールの頂点に君臨した作品である。そちらのパートが、どうにもいただけない。
時空を超えて届いた映画、そこに込められた想いと幸福。この甘酸っぱい物語は評価すべき設定と味わいである。しかしながら、消えた父親、昔懐かし昭和神田川、映画監督志望の青年との恋。とにかく、2時間という比較的長い尺を持たせるために、あれこれと要素を詰め込みすぎている。特に、昭和の描写はコメディに仕立てようと無理に会話を組み立てており、観客の苦笑を誘う。
ここまでならまだしも、唐突に交通事故のヒントをぶち込み、仲に走らせ叫ばせ、涙を捻り出そうとする始末。どこへ、行く?作り手が伏線の張りすぎに気付いたときには、時空を超えた迷子になってしまっている。
しかし、キャスティングは精巧に練られている。未来の携帯電話に目を丸くする中尾の間抜けな顔は、元来の柔らかい雰囲気によく合って気持ち良いし、安田、石橋、仲の微笑みが不思議なほどに似通っている。もっと、物語に溺れずに人物を生かす世界が欲しかった。
先述した「虹の女神」は、数少ない登場人物を二転三転転がし、分かりやすい喜怒哀楽の世界を作り上げていた。本作も、この機動力が働いていればもしや、世紀の傑作に化けたかもしれないだけに、非常に残念である。