劇場公開日 2010年5月8日

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9 ナイン 9番目の奇妙な人形 : 映画評論・批評

2010年4月27日更新

2010年5月8日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

3Dとは違った味わいの奥行きがあり、娯楽性もたっぷり

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ちっぽけな麻袋人形が目覚めたのは、機械によって人類が滅亡した未来の地球。こんな設定は見飽きているが、この作品のオリジナルである11分弱の短編を見たとき、ティム・バートンの「これまでの人生で見た映像の中で、最高の11分間だった」というコメントに心から賛同し、驚嘆していた。フルCGながらチェコやロシアのストップモーション・アニメを思わせる、寂しげな風情とパペットの造形。その表情、肉感的でかわいい動き! 言葉を使わず、哲学的でエモーショナルなテーマの表出に魅了されたのだ。これが大学生の卒業制作とは!

その長編化である本作では、登場する9人の人形たちの個性、衝突と団結、「オズの魔法使」を思わせる“自分探し”といった冒険ファンタジーの要素がストーリーを織りなし、とりわけ強大な機械モンスターとのバトル・アクションに力が入れられている。特筆すべきはその映像センスだ。光と影を強調した実写のような質感と、実写では表現し得ないであろう不穏さ、美しさを湛えた世界観は進化し、ゾクゾクするほど。3Dとは違った味わいの奥行きがあり、大胆なアクション演出には工夫が見られて娯楽性もたっぷりだ。ただし、広げた設定を80分で処理しきれず、終盤はいささか尻すぼみになってしまう。

この映画にとっての敵手は、同様の背景設定をもつ「ウォーリー」ではなく、オリジナルである。それを特別にしていた詩情やスピリチュアルな味わいが本作では期待したほど深まらず、不完全燃焼という印象を受けてしまうのだ。とはいえ、この監督はまだ新人。ストーリーテリングの技が磨かれたら、すごいことになりそうだ。

若林ゆり

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