劇場公開日 2010年3月20日

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マイレージ、マイライフ : インタビュー

2010年3月17日更新

09年度アカデミー賞で5部門にノミネートされたジョージ・クルーニー主演の話題作「マイレージ、マイライフ」が今週末に公開となる。本作は飛行機で全米中を飛び回り、リストラ対象者に次々とクビを言い渡す日々を送るリストラ請負人ライアン・ビンガム(クルーニー)が、その慌ただしい日常を過ごすうちに空しさを覚え、自らの人生を見つめ直していく姿を描いた人間ドラマ。「シリアナ」でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、08年の「フィクサー」に引き続き、本作でもオスカー主演男優賞にノミネートされたクルーニーに、これまでのキャリアや、仕事とプライベートの両立について語ってもらった。本作の監督を務めたジェイソン・ライトマンのインタビューとともにお届けする。(文・構成:編集部/(C) James Ford/VIVA PRESS/amanaimages)

ジョージ・クルーニー インタビュー
「最近はいろいろなことがうまくかみ合っていると思う」

ライアンは、リストラ請負人として全米中を飛び回り、マイルを貯めていくが、やがて自らの人生を省みるようになる
ライアンは、リストラ請負人として全米中を飛び回り、マイルを貯めていくが、やがて自らの人生を省みるようになる

──あなたはこの地球上でもっとも愛されている俳優の一人ですが、映画監督でもあり、企画を立ち上げるプロデューサーでもあります。あなたを動かす原動力はなんでしょうか?

「いまの僕には、僕がいまの立場にたどり着くまでにやってきたことを知っているというある種の満足感がある。そして、これからすぐに怠け始めるということもないだろうね。実際、今までくつろぐ余裕なんてなかったんだ。なぜかというと、ちゃんと目を凝らして厳しくチェックしていないと悪い作品にあたってしまうことがあるからね。それに、僕自身はまだ自分で最高の仕事をしたと思ってない。少なくともいまの僕は、自分が好きなことをし続けることができる立場にいて、その過程を楽しんでいるんだ。

僕自身にとってはそれがすべてなんだよ。最近では監督にもなったし、自分でプロジェクトを開発して、高いレベルの仕事ができるようになった。それにちょっとだけ自分のプライベートな時間も持てるようにもなった(笑)。僕は誰かをむかつかせるようなことはしたくないんだ。とにかく、最近はいろいろなことがうまくかみ合っていると思う」

ライアンと割り切った関係で 情事を楽しむアレックス(V・ファーミガ)
ライアンと割り切った関係で 情事を楽しむアレックス(V・ファーミガ)

──「マイレージ、マイライフ」の評判もとてもいいですね。

「自分が強い決意を持って関わろうとした企画が素晴らしい結果になるのは、いつでも楽しいものだよ。今回、僕らが映画製作を進めるなかで、とてもはっきりしてきたのは、コメディの要素がより少なくなっていき、不況の実態、実情といった部分により比重が置かれるようになっていったということだね。突然タイムリーな題材になったんだよ。金融危機が起こり、景気後退が始まり、それと同時に大勢の人間が職を失うという状況に陥り、まさに僕らはちょうどいいタイミングでこの映画を作っているということになった。だから、この映画は本当の意味で、多くの人にとって、差し迫った問題についての状況説明や本音のコメントとして見られることになったわけだ。それはこの映画にとって、本当に好都合だったよね」

──今回あなたが演じた役は会社のコストカットのためにリストラをするプロフェッショナルですが、あなた自身がクビを宣告されたことは?

「たくさんあるよ。ほとんどはTVショーだね。昔出ていた番組に映画『ベイビー・トーク』のシットコム版があったんだけど、その番組のプロデューサーとうまくいかなくてね。だから、クビにされたというよりは、自分から辞めたといったほうがいいのかもしれない。僕が覚えているのは、僕らと3週間一緒に撮影した赤ん坊がいたんだけど、プロデューサーがその赤ん坊をひどく嫌っていて、結局、奴は赤ん坊をクビにしたんだ。生後12週間なのに、もうクビなんてひどいだろ(笑)」

──その他大勢の映画スターと違って、あなたはとてもリラックスしているように見えます。どうやってそのクールさと落ち着きを保っているのですか?

「ロサンゼルスに来る前、僕はとても有名なニュースアンカーマン(ニック・クルーニー)の息子だった。しかも叔母はその当時の音楽業界で最大のスターの一人だったローズマリー・クルーニー。だから、セレブリティになることの意味や、『名声は早く過ぎ去る』というようなことを何となく知っていたようなところがある。叔母が教えてくれたことで覚えているのは、『自分の身に起こることと自分自身を秤にかけてバランスを保つ』ということ。ショウビジネスの仕事はとても多くの幸運と巡り合わせ、そしてタイミングがものを言う。僕の場合は『バットマン』が最も大きな役だった。その代わりに『バットマン&ロビン』以降は安易なシリーズものには出演しなくなったけどね。そうやって、人は謙虚になり、当たり前のように成功を手に入れることはできないということを学ぶんだよ」

ともにオスカーにノミネートされた クルーニーとナタリー役のアナ・ケンドリック
ともにオスカーにノミネートされた クルーニーとナタリー役のアナ・ケンドリック

──これまでの自分自身の監督作品を自分でどう評価しますか?

「これは本来自分で言うことではないと思うけど、『グッドナイト&グッドラック』はとても誇りに思っているんだ。この前の『かけひきは、恋のはじまり』はそれほどでもないけどね。コメディで始まり、ドラマで終わってしまった。レニー・ゼルウィガーとの仕事は好きだけど」

──近年、あなたはとてもパワフルに働いてますが、それはもう2度と他の仕事を探したくないという、多くの俳優が持っているある種の恐怖感がそうさせているのですか?

「それはある部分では当たっている。僕の父親は僕以上にそういった恐怖感を持っているだろうね。それに父は、彼自身の仕事で重要な政治の話題を扱うときに、とても高いレベルの品位を持っていた。父はとても熱心なジャーナリストで、信念を持つということと、尊敬を持って他人と接するということに関してとても多くのことを教えてくれたんだ。そういったことを教えられて育つとすごく印象に残るものなんだ。そして、歳をとって、より賢くなったときに、目的を果たすために一生懸命働けば、より多くのことを人生で得ることが出来るという当たり前のことを理解し始めるんだよ」

──あなたのお父さんは、あなたが俳優のキャリアのためにケンタッキーを出てロサンゼルスに移ったことをどんなふうに思っていたのでしょうか?

「それは父親のことだからわからない。ただ、父は僕がケンタッキーから出たがっているということ、そして叔母のローズマリーが僕にとって大きな刺激になっていたことをとても良く理解していたと思う。その一方で、父は僕に対して『とてもつらい時期を過ごすことになるだろうし、多くの失望感を味わうことにもなるだろう』と言っていたんだ。だけど、たとえそれが何であれ、いい生活を夢見る二十歳過ぎの若者はそういうふうには考えないんだよ」

──あなたが特に誇りに思う映画はなんでしょうか? ドラマティックな役を演じた「シリアナ」や「フィクサー」でしょうか?

「そうだね。そういった映画は観客を大人として扱っているし、そういうシリアスな映画に関わっているときには、自分の全人生をかけて仕事をしていると感じるものなんだよ。僕が興味深いと思っているのは、人々が関心を持っていて、成功するだろうと思われている『シリアナ』のような映画でさえ、製作資金を得るのがとても難しいことだね。

僕は『スリー・キングス』や『アウト・オブ・サイト』みたいな映画に出たいんだ。なぜなら、こういった映画は限界に挑もうとしているし、ある種の指標を残してくれるからね。少なくともいまの僕は良いプロジェクトを進めるために一生懸命働きさえすればいいという立場にいるから、持っているどんなチャンスも利用できるんだ。基本的に、僕は少ないお金で契約して、プロジェクトに入っていって、それが公開されてうまくいったら、あとからお金をシェアするという方法を採っているんだよ」

イタリアとアメリカの往復で クルーニー自身のマイレージはかなりのものに?
イタリアとアメリカの往復で クルーニー自身のマイレージはかなりのものに?

──映画俳優のキャリアとは別のプライベートでも、とてもいい人生を過ごしているようにみえますが、プライベートの充実と仕事は関わりがありますか?

「僕が映画のプロジェクトを進めているときには基本的に自分のプライベートのことなんて考えたりしないよ。僕は面倒を見なくちゃいけない家族も子供もいないし、そういった長く親密な関係を経験していないという意味で、本当に気にかけてないんだ。

僕の人生が愉快に、そして予期しない形で変わったのはイタリアのラーリオ(コモ湖畔の町)に別荘を買ったことだね。これはまったく予定していなかったことで、100%の投資案件だったんだ。僕としては数週間のバケーション用に買っただけなんだけど、実際に数週間過ごしてから離れると、イタリアでの生活がとても素晴らしいものに思えてきたんだ。何のプレッシャーもなくて、とても落ち着くんだ。仲間を連れてきて、仕事も生産的にできるしね」

──そのイタリアでの生活は、いかがですか?

「数カ月はスポットライトを浴びずに過ごすことができる。それに、友だちとつるんでレストランに出かけたりするのはとても楽になったよ。ラーリオや周辺の小さな村には大量のパパラッチもいないからね。僕のラーリオでの生活はセレブリティ生活からの解放でもあり、とても喜ばしい変化だったんだ。だが、残念なことにラーリオはちょっとした有名観光地になりつつある。だから、これからはちょっと気をつけないと。旅行パンフレットを渡している村の入口に立って手を振ってあげるべきかもしれないね。でも実はそれほど気にしていないんだ。気分転換にブラッド・ピットアンジェリーナ・ジョリーと彼らの15人の子供を呼びよせればいいんだからね。そうすれば僕は湖の反対側に行って好きなことをいくらでもできるんだから(笑)」

インタビュー2 ~ジェイソン・ライトマン監督が語るジョージ・クルーニーの魅力
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