孤高のメス : 特集
堤真一主演で大鐘稔彦のベストセラー小説を映画化した医療ヒューマンドラマ「孤高のメス」が6月5日より全国で公開される。ひとりの医師が、患者の命を救うために信念を貫き、タブーに挑む姿を描いた本作の魅力について、ベテラン批評家による評論や試写会での一般ユーザーのレビュー、予告編動画などを交えて検証していく。
ひとりの男の信念が、人々のきずなを呼び起こす…最高峰医療ヒューマンドラマ誕生!
1989年、とある地方都市の市民病院に外科医・当麻鉄彦が赴任する。冷静で正確なオペ技術を持ち、なにより患者のことを第一に考える当麻の姿勢は、仕事に疑問を抱いていた看護師の浪子らにも影響を与え、停滞していた院内の空気を活気づかせていく。しかし、そんなある時、当麻は脳死した患者からの肝臓移植を行うか否かという大きな決断を迫られる。それはまだ法律で認められた手術ではなかったが、当麻はいかなるリスクを背負おうとも、助けられる命に手を差し伸べようとするのだが……。
主人公・当麻に扮するのは堤真一。監督は、堤の主演で高い評価を受けた「クライマーズ・ハイ」の脚本も手がけた成島出。当麻は、当時の法律ではタブーとされた手術に臨むが、その根底にあるのは「患者の命を救う」という医師としてごく当たり前のことを成そうとする心だ。自らの信念にもとづいて行動する男の姿を描くという点で「クライマーズ・ハイ」にも通じ、不可能に挑戦していく人々のきずな、人と人との命をつなぐ大切さを描き出していく。
さらに、原作者・大鐘は現役の医師でもあり、描かれる手術シーンも現役医師陣が完全バックアップ。キャスト陣は実際に手術現場を見学するなど入念な役作りを行い、リアリティを追求した。堤はもちろんのこと、夏川結衣、吉沢悠、中越典子、成宮寛貴、余貴美子、生瀬勝久、柄本明といった実力派共演陣たちのアンサンブルは重厚かつ繊細で、気がつけばその世界に引き込まれているはずだ。
■「孤高のメス」予告編配信!
■試写会来場ユーザーの年齢・性別を問わず、共感と絶賛が続出!
eiga.comでは本作の独占試写会を実施。上映後に回答してもらったアンケートに、沸きあがる熱い思いをぶつけてもらった。当麻の姿に、映画ファンが見たもの、感じたこととは?
「孤高のメス」の感想をツイッターでもチェック!
■映画評論家の見た「孤高のメス」
そして、eiga.comの「映画評論」コーナーなどでおなじみの映画評論家・大久保賢一氏、垣井道弘氏からも寄稿いただいた。映画を知り尽くしたプロの評論家が、「孤高のメス」に納得した理由とは?
ふらりと現われ、仕事を終えて去ってゆく外科医当麻鉄彦。彼を主人公とするこの作品は組織と個人、技術と感情、医療の倫理、そして命をつないでゆくこと、といくつもの大きなテーマをドラマにつむいでゆく。
もちろんそのクライマックスは脳死状態の少年から肝臓を取り出し、市長に移植する手術の経過を描く、スリルとサスペンスに満ちたシーンだ。
周囲に色濃く描かれてきた人物たちの個性やドラマの中で、彼の表情は寡黙とすらいえる。音楽の好みはユーモラスだが。
彼の言葉はその手のメスにある。繊細であり、とぎれのない音楽のように進むその手の技にある。身体の内部という空間を知り尽くし、時間との闘いを生きてゆくその手の技。
仕事ということの具体性と手応え、それに対する彼の確信が、同じ現場につく周囲の人間たちに大きな影響を与えていく。コミュニケーション。その最高の形を我々はこの作品に見ることができる。
ズシリと重く見応えがある。こんなに後味のいい大人の映画を見たのは久しぶりだ。トランク一つで田舎町の病院にやってきた外科医の当麻鉄彦は、20年前にはタブーだった脳死肝移植に決然と挑んでいく……。
そんな当麻先生の生きざまを、看護師・中村浪子の目を通して生き生きと活写している。当麻先生と出会った浪子が、仕事に誇りを取り戻していく過程がとてもいい。「先生のオペには気負いもてらいもない。正確で緻密な作業をコツコツ積み上げていく」と日記に書き遺す彼女の言葉は、そのままこの映画に当てはまる。成島出監督はアクションが得意だと思っていたが、今回は気負いもてらいもなく、正確で緻密な演出をしている。リアルな手術シーンの真実味が、この映画に説得力をもたらしている。
人間の命にかかわる医師の仕事はどうあるべきか。患者の命を救うことが仕事だという当麻先生の困難に立ち向かう勇気が、体温のようにあたたかく伝わってくる。自分の仕事に誇りを持って生きる勇気と感動をプレゼントしてくれる傑作になっている。