「妻の死から立ち直る男の話」インセプション 林檎さんの映画レビュー(感想・評価)
妻の死から立ち直る男の話
深層心理にもぐりアイデアを盗むというアイデア(設定)、これをきちんと映像にしている。各階層の描写が面白いし、それぞれの能力を持った仲間を集め目的を果たす、という王道とも呼べるべきストーリー展開がある。冒頭に終わりの方のシーンを持ってくるのも王道か。ベタ好きとしては楽しめる展開。ワクワクする。
設定を活かすためのカラクリや小道具がまた洒落ていて好き。夢と現実を区別するためのトーテム。最後、この小道具にしてやられる。「おいっ!」なんて声出しちゃう。結果どっちなのか分からない終わり方だが、そこが良い。あだち充的な?いやま、この映画はそんな清々しいものでは無いけど。
主人公のコブはある意味「妻殺し」だった訳だが、そこの罪悪からの立ち直り、というか救いと言うか、なぜ吹っ切れることになったのか?もう一度観るならここを注目したい。
あのタイミングで?あの仕事の中で?少しまだ釈然としない。設計士の学生に自分の罪を、おそらく他人と共有するのは初めてなのだが、それが引き金になるのか?いや、それは安すぎる感がしてしようがない。
結局、コブもモル(妻)と同じく現実と夢との区別が曖昧になっているのか、夢のモルに愛、というか慈愛というか、そういうものを引きずっている。
二人が列車で轢かれるシーン。若い頃と年老いてからのシーンと二つ出てくる。この意味とか。若い頃のはただミスリードさせたいだけ、ではないだろう。実際の状況では長年連れ添った老夫婦が夢から覚めるために自殺するということだろうから、現実の肉体は若いままなわけで。。。
夢に何層も潜ることによって時間の流れが遅くなっていくのが、きちんとそれぞれの階層のシーンで表現されリンクされている。起こすためのキックである音楽。重力。痛み。意識。そういったものがきちんと別の階層にも影響する。こういう細かい作りがこの映画を深くしている。