チェイサー(2008) : インタビュー
韓国では500万人を動員する大ヒットを記録し、作品、監督、主演男優賞など大鐘賞6冠に輝いた傑作犯罪スリラー「チェイサー」。実際に起こった事件をベースに猟奇殺人犯と元刑事の息詰まる追跡劇を描いた本作について、来日したナ・ホンジン監督に話を聞いた。(取材・文:くれい響)
ナ・ホンジン監督インタビュー
「表現とストーリー面では、どこかで自信があったといえますね」
──製作段階から、ここまで評価される作品になると思っていましたか?
「そんなことは、まったくなかったですよ。自分たちが映画を撮っていることを誰も知らず、映画雑誌での記事すら見たこともない。そのうち、製作資金も底を突き始めていったし、まるで自分が“シルミド”に来ているような気分に追い込まれていきました(笑)。でも、表現とストーリー面では、どこかで自信があったといえますね」
──それは具体的に、どういうことでしょうか?
「表現的な面では、手刺繍のような感覚。機械で作ったものでないから、デザインがちょっと歪んだり、糸に手垢が付いたり、決して美しく整ったものではないかもしれない。でも、そこには人間の痕跡が残っている。ストーリー面では、人間そのものについての話を描くこと。人間は自らの本性を隠して、日常生活を送っており、悪の部分はないと信じている。そういう部分も徹底的に描いたからこそ、男女関係なく、多くの観客が共感できたんだと思う」
──劇中、「ダーティハリー」を意識させるシーンもありましたが、ホンジン監督はどのような監督たちに影響されたのでしょうか?
「確かに、ハリーのキャラクターの強さが好きなので、少なからず影響を受けているとは思いますね。ジャンル的にはスリラーが好きで、クエンティン・タランティーノ、ウィリアム・フリードキン、サム・ペキンパー、セルジオ・レオーネなど、自分に刺激を与えてくれた監督はたくさんいます。私自身、映画学校に行ったわけでもないので、シナリオの書き方や映画の撮り方は、彼らの映画を何度も観ることで学んでいったんです」
──さて、日本ではR-15指定ですが、韓国ではさらに厳しいR-18指定だったということは、リスクになりませんでしたか?
「その対象になったのは、もちろんバイオレンス描写です。とはいえ、それら3シーンはこの作品に必要不可欠なものだったんです。だからこそ、商業的なリスクを背負ってでも、カットすることを譲れなかった。プロデューサーからしてみれば、主人公のジュンホが最初、悪人のようにみえること。そして、彼が追い続ける殺人鬼・ヨンミンに、これといった動機がみられないことも、ひっかかっていたようですね」
──衝撃のラストシーンに関しては、いかがだったんでしょうか?
「もちろん、契約段階から“絶対に口を出させない!”ということを同意の上で話を進めましたよ(笑)。今回、嬉しいことにハリウッドでのリメイクが決まりましたが、さすがに変更されてしまうでしょうね。あくまでも自分が撮りたいと思っていた『チェイサー』は、自分のやり方で撮りました。だから、それを原作にハリウッド流にリメイクしてもらえばいいんですよ」