劇場公開日 2010年2月6日

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抱擁のかけら : インタビュー

2010年2月3日更新

88年の「神経衰弱ぎりぎりの女たち」で注目を集めて以来、「ハイヒール」「キカ」「ライブ・フレッシュ」「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」「バッド・エデュケーション」そして「ボルベール/帰郷」と作品を発表するごとに話題を集め、母国スペインはおろかヨーロッパ映画界を代表する存在となったペドロ・アルモドバル監督。そんな彼の最新作「抱擁のかけら」の主人公は映画監督で脚本家。自らを投影したと思われる主人公や、本作で4度目のコラボレーションとなった名コンビのペネロペ・クルスについて語ってもらった。(取材・文:佐藤久理子

ペドロ・アルモドバル監督インタビュー
「この映画は私の映画に対する愛情と、ペネロペに対する情熱の表現と言える」

撮影中、調理するペネロペに演技をつけるアルモドバル監督
撮影中、調理するペネロペに演技をつけるアルモドバル監督

――主人公の映画監督マテオ・ブランコ、またの名をハリー・ケインというキャラクターには、どの程度あなた自身が投影されているのでしょうか?

90年代にアルモドバルが着ていた服と 同じ服を主人公マテオ(左)が着ているという
90年代にアルモドバルが着ていた服と 同じ服を主人公マテオ(左)が着ているという

「同じ職業だから、かなり自分を参考にしているよ。たとえばマテオが着ている服はすべて、私が90年代に着ていたものだ。ハリー・ケインというペンネームも一時“アルモドバル”という名前に飽きたときに自分で使っていた。その後はまた飽きて使わなくなったけれど(笑)。でもだからといって、自分自身をドキュメントする気はなかった。このキャラクターや物語はあくまで想像の産物だ」

――映画界では監督と女優が恋に落ち、素晴らしいコンビとなって傑作を生み出すパターンが多いですが、そうした関係についてどう思いますか?

「とても祝福すべきものになる場合と、最悪のケースになる場合と両方あるんじゃないかな。たとえばジョセフ・フォン・スタンバーグマレーネ・ディートリッヒミケランジェロ・アントニオーニモニカ・ビッティイングマール・ベルイマンリブ・ウルマンジョン・カサベテスジーナ・ローランズの例は素晴らしい。彼らの関係によってその映画自体もとても豊かなものになっている。特にベルイマンカサベテスの場合、ふたりとも自分の残酷でダークな面を映画で露出するのを厭わず、それが彼らの作品を特別なものにしている。そんなふたりの勇気に惹かれるよ。でも自分の場合は、俳優と関係を持つようなことになったらきっとうまくいかないと思う。とても不安定な感情を抱いてしまうだろう。もちろん私が言っているのは性的な関係のことで、感覚的、精神的なそれはまた別だ。私は俳優たちに接するとき、とてもセンシティブになる」

アルモドバルが 「きわめて直観的な女優」と評するペネロペ
アルモドバルが 「きわめて直観的な女優」と評するペネロペ

――この作品はあなたの、映画というものに対する情熱についての映画だと思います。それはまた女優ペネロペ・クルスに対するあなたの情熱とも言えますか。彼女とはこれが4本目の作品となりますが、その特別な絆について教えてください。

「たしかにこの映画は私の映画に対する愛情と、ペネロペに対する情熱の表現と言える。ふたりの人間のあいだに起こる化学反応というのはとてもミステリアスなものだ。愛と同じで、なぜそれが起こるのかは誰にもわからない。でもそうなったときは素晴らしいものになる。

ペネロペはとても興味を惹かれるタイプの女優で、私が求めるクオリティをそなえている。自分なりのテクニックを持っているが、テクニカルな女優というわけではなく、それが目につくわけでもない。きわめて直観的な女優で、自分のキャラクターに感情的にコネクトすることを必要としている。それは私が描くキャラクターにとって、とても大切なことなんだ。普段は強い女性を演じているにも拘らず、彼女自身は脆さも持っている。その2つが兼ね備わったとき、『ボルベール/帰郷』のキャラクターのような、素晴らしい結果をもたらす。そしてもちろん、とても美しくフォトジェニックで、そのうえ寛大な女性だ。私は要求の多い監督で、2カ月も前からリハーサルを始めることも珍しくないが、それでもいつもスケジュールを融通してくれるんだよ。すべての女優が彼女のようなわけには行かないだろう(笑)」

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