「俺軍、暁の出撃! くたばりません勝つまでは。」インビクタス 負けざる者たち たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
俺軍、暁の出撃! くたばりません勝つまでは。
1995年ラグビーワールドカップの顛末を、南アフリカ共和国大統領ネルソン・マンデラの視点から描いた、史実を基にした人間ドラマ。
監督/製作は「硫黄島2部作」や『グラン・トリノ』の、言わずと知れたレジェンド映画人クリント・イーストウッド。
主人公ネルソン・マンデラを演じるのは『ショーシャンクの空に』「ダークナイト・トリロジー」の、レジェンド俳優モーガン・フリーマン。なお、フリーマンは製作総指揮も担当している。
南アフリカのラグビー代表チーム「スプリングボクス」のキャプテン、フランソワ・ピナールを演じるのは『オーシャンズ』シリーズや『ボーン』シリーズの、名優マット・デイモン。
南アフリカ🇿🇦の政治状況は言わずもがな、ネルソン・マンデラ大統領のことすらほとんど知らない状態で観賞。
この映画の非常に優れている点は、その情報整理力。
90年代の南アフリカがどういう状況だったのか、ネルソン・マンデラがどういう人物でどのような人生を送ってきたのか、南アにおけるラグビーの立ち位置がどのようなものなのか。
このような要点が纏まっており、なおかつ説明的でなく描写されているので、非常に観やすい。
政治劇は事前の知識が無いとよくわからんということになりがちだが、本作はほぼ知識0の状態でもちゃんと理解出来るように構成されている。
この辺りはさすが名匠クリント・イーストウッドといったところでしょうか。
スポーツを取り扱っている作品ではあるが、決してスポ根映画ではない。
友情・努力・勝利が描かれていない訳ではないが、そこはあくまでもサラッと流される。
また、BGMやサントラで一気に盛り上げるというような演出もほとんど無い。
ラグビーというハードなスポーツを描いた映画でありながら、全体の温度は驚くほどにクールで淡々としている。
ラグビーワールドカップの優勝。
これがこの物語の目的である。
結果として南アはワールドカップを優勝する訳だが、実は大会の結果とかこの映画においてはどうでも良い。
この映画のメッセージは「インビクタス」=「不屈」。
勝てなくても良い。しかし、屈服だけはするな。屈服しさえしなければ、今は無理でもいずれ強大な壁に風穴を開けることができるかもね、ということが主題な訳なので、無理にラグビーの描写を増やしたり、過剰に盛り上げようとしたりしなくても良いのです。
むしろ淡々と描写を積み上げていくという本作の作風とネルソン・マンデラの人間性はピッタリ。
この静かな作風により、マンデラという人間の生き様がより克明に浮かび上がってきているように思います。
間違いなく良く出来た映画。まぁちょっと思ったのは、あまりにも楽観的に過ぎるかもなぁ、ということ。
アパルトヘイトの撤廃は、新たな差別と格差を呼び起こし、今やネルソン・マンデラの掲げた「虹の国」は崩れさり、新しい人種分離の問題が噴出している。
映画の中だけでも…という思いもわかるのだが、ちょいと安易な解決を提示しすぎている気もする。
ウェルメイドな映画だとは思いますが、めちゃくちゃ面白い!とか、燃える!とかそういう感じではない。
言い方は悪いが、いかにも老人の撮った映画という感じ。
テンポがゆったりとしており、ダッシュッ!💨というより散歩〜🚶って感じの映画。
しっかりと腰を据え、ネルソン・マンデラの人生に思いを馳せながら観賞しましょう😄
※この映画の解説をライムスターの宇多丸さんがしており、それが某映像サイトに転載されていたんだけど、宇多さんの読み解きが凄い!👏
言葉、詩、歌、舞踊…etc。そういった「表現」がいかに人間を鼓舞し、持ち得る力以上の実力を発揮させるのか。この映画ではそれが一貫して描かれている…。なるほどなぁ。
横と後ろにしかパスを出せないラグビーというスポーツが、南アという複雑すぎる国家の政治の比喩として作用している。横と後ろにパスを出しながら、少しずつ前進していけば、いずれは勝利を手にすることが出来るかもしれないのです。なるほどなぁ。
※※日本が産んだ最高の詩人、「マーシー」こと真島昌利。私が最も尊敬する人物です🎸
彼の楽曲に「俺軍、暁の出撃」(1996)というものがあるんだけど、その中にこういう一節がある。
俺は俺軍の大将
俺は俺軍の兵隊
俺は一人でも軍隊
最強無敵だ
この歌詞、ウィリアム・アーネスト・ヘイリーの「インビクタス」から拝借していたのか!
とこの映画を観ていてピン💡ときました。
まぁ偶然の一致かも知れんが、マーシーならこの詩を知っていてもおかしくはない。
流石マーシー、文学の素養半端ねぇっすわ…。
>この映画のメッセージは「インビクタス」=「不屈」。
>勝てなくても良い。しかし、屈服だけはするな。
⇒そこをちゃんと読み取れていなったので参考になりました。
ありがとうございます。