劇場公開日 2010年2月5日

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「南アフリカだけの話ではありません アメリカにも、日本にも必要な物語なのです」インビクタス 負けざる者たち あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0南アフリカだけの話ではありません アメリカにも、日本にも必要な物語なのです

2021年8月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

東京オリンピック2020
コロナウイルスのパンデミックによって、1年順延の末、2021年7月23日から8月8日まで開催されました

しかし1 年延期してみてもコロナ禍の猛威はおさまらず、オリンピックの開催について日本は真っ二つに分断されてしまいました
中止すべき派と、なんとしても開催すべき派の対立は罵倒合戦にすらなっていました

結局、殆どの会場は無観客、あるいは有観客であっても会場収容人数よりもはるかに少ない人数で開催することで決着して開催されたのは、ご承知の通りです

オリンピック閉会から1週間ほど経ちました
本作に登場するのは1995年のラグビー・ワールドカップ南アフリカ大会の会場の光景です

数万人もの大観衆が大スタジアムをこぼれ落ちんばかりに満杯にしています
めいめい国旗をもったり、代表チームのユニフォームを着たり、フェイスペイントしたり、ヘンテコな帽子を被ったりして、熱狂的に大声を上げて応援しています

本来の東京オリンピックはこうなるはずだったのてす
国民が一致団結して、日本選手とチームを応援して、相手チームの健闘を称えていたはずでした

空っぽの国立競技場、空っぽの各会場
そこからは歓声も拍手もないのです

一応、オリンピックは大会としてはつつがなく終わり、各国選手団や記者団は去っていきました

残ったのは、コロナの爆発的な感染急拡大でした

本作はラグビーの映画なのでしようか?
もちろん違います
本当に描いているのはアパルトヘイトで分断されていた南アフリカの国民の統合の物語です
それをラグビーワールドカップにおける南アフリカチームの活躍を軸に描いてみせているのです
その構成力、秀逸な脚本が本当に見事です

そして本作は南アフリカの物語のようにみえて、実はアメリカそのものの物語でもあったのです

2009年1月、アメリカに初めて黒人大統領が就任
同年12月、本作が米国公開
この2つの日付に注目しなければなりません

そうすれば冒頭の南アフリカのアパルトヘイトが生んだ人種の分断の現実の光景は、まるでアメリカの人種的分断の実態を視覚的に分かりやすく表現されたもののようにみえてきます

マンデラ大統領が大統領官邸に初めて入るシーンは、オバマ大統領がホワイトハウスに初めて入ったときはかくやと想像してしまうものです

ラグビー代表チーム主将のフランソワがチームを引き連れて、マンデラ大統領が27年間投獄されたケープタウンの沖合15キロ程に浮かぶ離島ロベン島の監獄を訪問し、トイレの個室ほどしかない独房を見学して愕然とするシーン
それは米国における人種差別の歴史を投影した光景でもあるのです

マンデラ大統領は、ラグビーのワールドカップを政治的に上手に利用して、人種で分断されていた南アフリカを見事に統合してみせたのです

決勝戦のときの、白人も黒人も無くひとつになって応援し、勝ったときの爆発するように喜び肩を抱きあう姿こそ、マンデラ大統領が目指した国の統合そのものの姿でした

オバマ大統領にもこのようにアメリカ国民を一つに統合して欲しいとの強いメッセージを本作から感じます

本作公開から12年
私達はその後の結末を知っています

アメリカのオバマ大統領は再選され、2期8年の任期を終えて退任しました
しかし後任に選挙で選ばれたのはトランプ大統領でした
アメリカはまたも分断され、より強く分断がはっきりと誰の目にも入るようになってしまったことを私達は知っています

選挙戦の間、あの様に高邁な理想、高潔で格調のあった演説で魅了したオバマ大統領だったのに、就任してからはどんどんトーンダウンして、幻滅すら感じてしまう大統領になったことの反動がそうさせたのだろうと思います
そしてそれを正そうとそのトランプ大統領を破って就任したバイデン大統領は今度はアフガニスタンで理想主義に走って大混乱を引き起こしているようです
まるでダッチロールです

南アフリカはマンデラ大統領は、1994年に76歳で就任して、本作で描かれた1995年のワールドカップのあと、1999年に高齢を理由に政界引退され、その後悠々自適の生活を送り2013年に病気で95歳でお亡くなりになりました
映画では南アフリカの未来は明るく希望に満ちている姿で終わります
しかし2021年の私達は知っています
南アフリカの人種間の貧富の格差はそのままであり、それどころか世界一治安が悪いとすら言われていることを

日本もオリンピックや、コロナワクチンなど様々に事あるごとに、ネット右翼だ、パヨクだと互いに罵倒を繰り返ししているのを目の当たりにしています
東京オリンピックは、本当は日本国民を団結させ、日本を衰退していくだけの国になるのではなく、明るい未来を目指していこうという希望で日本国民を熱狂させるはずのものでした
それなのに、いまはもうそれみたことかという罵倒と後悔に包まれてしまっています

しかし、私達は負けてはいられないのです
劇中、マンデラ大統領から代表チームの主将に贈られる大統領官邸の便箋に大統領自から万年筆で綴られたウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩
それを心に刻みつけなければなりません

インビクタス

私を覆う漆黒の夜
鉄格子にひそむ奈落の闇
どんな神であれ感謝する
我が負けざる魂に

無惨な状況においてさえ
私は、ひるみも叫びもしなかった
運命に打ちのめされ 血を流そうと
決して頭は垂れまい

激しい怒りと涙の彼方には
恐ろしい死だけが迫る
だが、長きにわたる、脅しを受けてなお
私は何ひとつ、恐れはしない

門が、いかに狭かろうと
いかなる罰に苦しめられようと
私は我が運命の支配者
我が魂の指揮官なのだ

INVICTUS
インビクタスとは不屈や不敗を意味するラテン語
それはどんなに困難であっても、負けることのない心があれば必ず乗り越えられるということです

アメリカも、南アフリカも、日本も
負けてはならないのです

コロナのパンデミックにも
負けてはいられないのです

南アフリカだけの話ではありません
アメリカにも、日本にも必要な物語なのです

劇中のマンデラ大統領の言葉には感動しどおしでした
本物のリーダー、本物の偉人です

クリント・イーストウッド監督の手腕
モーガン・フリーマンの名演
実際さながらのラグビーシーンとマット・デイモンの迫真のプレー
いくら激賞しても足りません

本当の名作です

あき240
NOBUさんのコメント
2021年8月19日

こんにちは
スポーツは、人種の壁を越えると言うメッセージが、伝わって来る良き映画ですね。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年8月18日

今晩は
 素晴らしきレビューですね。感服です。

NOBU
KEIさんのコメント
2021年8月18日

共感有難うございます。日米にも必要な物語、確かにそうですね。

KEI