「何が描きたかったのか主張がよくわかないが、2010年、寅さん世代に贈る昭和ノスタルジー映画か。」おとうと さやかさんの映画レビュー(感想・評価)
何が描きたかったのか主張がよくわかないが、2010年、寅さん世代に贈る昭和ノスタルジー映画か。
テレビの番組情報には「感動作」と書いてあったが、感動はしなかった。
吉永小百合のセリフ回しがいかにも昭和の学芸会的ノリだし、さゆりちゃんは昭和を代表するアイドルなので、いろいろととにかく昭和なんだなーと思った。台詞の言い回しはさゆりちゃんに合わせたのか山田洋次監督のシナリオどおりなのか、若い蒼井優も一緒になって学芸会ノリである。
冒頭から昭和エピソードだし。なんせ寅さんオマージュだし。
話の内容は、こんなもんかな、こんなストーリーあるよね、という感じで目新しさはないので、昭和の大アイドル・吉永小百合をシネマスクリーンに出したかっただけではないかとも思える。
内容的には、鉄郎のような人は昭和50年代くらいまでは「寅さんぽい」とか、「身内に一人はいたよね困るんだけど憎めない人」みたいな位置づけだが、現代社会で位置づければ、彼は知的障害境界ゾーンなのか発達障害(いわゆるケーキが切れない子供)なのか、とにかく何か先天的な障害を抱えており(寅さんとは違い、生活が破綻している)、更にアルコール依存症である(アルコール依存症も先天的因子が強く、本人の意志の強い弱いには関係がない)。
その観点で彼は、救いの手が必要な弱者である。このような人物を「何度叱っても聞いてくれない悪い人間」「困るけど憎めない身内」として描くことに、私は抵抗がある。早く、適切な介入をして、保護され、障害を本人が理解し、問題を緩和して、社会生活が営めるよう訓練を受けるべき人であった。
物語はいくらでも美化できるし、失った130万円もなかったことにできるだろうが、現実にはそうは行かない。結婚式まで挙げた婚姻生活の破綻を、こんなエピソードで許せるだろうか。
兄は「縁を切る」と言ったが、縁を切って済む問題ではなく、治療につなげることが必要なケースだろう。
生活保護にしても、本人に身内がいるとわかった場合、姉を説得して金を出させ面倒を見させようとするのが行政というものだろう。行政が親族に照会するのをやめさせようとする動きは、現実には去年始まったばかりだ。
昭和を懐かしがるお年寄りに贈る、昭和中盤世代のための映画、
ないしは、山田洋次監督自身が美化された昭和を懐かしんで作った映画、
そんな気がする。
出演している役者さんのファンだとか、何か理由がない限りは見る必要がない映画。