劇場公開日 2010年3月12日

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「名探偵はマッチョで寂しがり屋」シャーロック・ホームズ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0名探偵はマッチョで寂しがり屋

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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観賞中、ずっと気になっていたのは、「ホームズ・ファンはこのホームズを受け入れるだろうか」ということだ。名優ジェレミー・ブレットがホームズを演じたテレビシリーズ「シャーロックホームズの冒険」やコナン・ドイル原作のホームズ像からは、この作品のロバート・ダウニーjrは、かなりかけ離れている。今回のホームズは、拳闘好きで身体を鍛え上げたマッチョ。なのに親友ワトソンが自分から離れようとしていることに悲しむ小心で寂しがり屋、それでいて、ここはオリジナルのホームズらしいところだが、抜群の観察眼をもっているのだから、人間的には嫌味な面ばかりが目立つ男だ。
 ところが、物語が進むにつれて、この嫌な人間のホームズが、何とも魅力的に見えてくるところがこの映画の見どころだ。嫌味なところが逆に面白い人間味あふれたキャラクターに成りえたのは、ロバート・ダウニーjrの演技力に他ならない。さすがにゴールデングローブ賞をとっただけの名演と感服させられた。

 その名演でも受け入れがたい、と思っているホームズ・ファンは、映画全編に散りばめられている、原作本に登場しているキャラクターやシーンのオマージュの数々に注目してほしい。たとえば、ワトソンの恋人にメアリー・モースタン、ホームズたちが犯人を追跡するために乗る速い石炭蒸気船は、「四人の署名」をそのまま引用しているし、「ギリシヤ語通訳」や「高名の依頼人」を思い出させる場面もあるなど、この作品はコナン・ドイルの原作にはない物語だが、原作やテレビシリーズを知っている者には、思わず乗り出したくなる箇所がいくつもあるのだ。それには製作サイドの遊びというより、原作への尊敬も感じられるところは、ホームズ・ファンには嬉しく感じるはずだ。

 さて原作とは違う物語だが、概ね面白いものだった。産業革命の嵐が吹き荒れたロンドンを舞台にしているだけあって、文明が変化する時代の端境期をうまく取り上げている脚本は評価できると思う。ただ、後半の展開の速さとは逆に、視点がイマイチ定まらなかつた前半の演出のもたつきは、少し残念に感じた。正直言って、前半の流れだけなら、わざわざホームズを主役に持ってくる必要性などないものだったが、ダウニーjrの演技と後半のたたみ掛ける演出で救われた感じだ。

 この作品では、ブラツクウッドという原作にはないオリジナルの悪役が登場するが、ホームズ・ファンからすると、「原作に登場する名敵役・モリアティ教授でいいじゃないか」と言いたくなるだろう。実は、そのモリアティが物語の中の意外なところで登場してくる。その意外性、驚きも感じられるこの作品は、ホームズを知らない人も、ホームズ・ファンも楽しめる好編だと思う。

こもねこ