劇場公開日 2011年3月26日

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「前を見据えて叫べ、“クワッカー!!”」ザ・ファイター 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5前を見据えて叫べ、“クワッカー!!”

2011年4月10日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

興奮

今更ながら、祝!
クリスチャン・ベール、アカデミー賞助演男優賞受賞!
役者魂はある人なのに、これまで共演者に喰われたり
作品があと一歩だったりしてたものね。
いやあ、ホント良かった。

逆に本作では巧い役者さんが多すぎて、主演の筈の
マーク・ウォールバーグが割を喰ってる感があるのが気の毒……。
けどね、彼だって今回良いんすよ!?
迫真のファイトシーンとか、身勝手な家族をそれでも見捨てない誠実さとか。
何よりミッキー役に相応しい屈強なブルーカラーの雰囲気と、
素朴で優しい雰囲気を併せ持った俳優ってそうそう居ないと思う訳です。

しかし主人公ミッキーが真人間なだけに、あの家族にゃ呆れた。
とうの昔の栄光に浸るクラック中毒の兄ディッキー。
その兄しか眼中に無い母親。
並の不良よりタチの悪い姉妹軍団……。

だが鑑賞後によく考えてみると、あの母親も優秀なボクサーだった息子を
盲目的に溺愛していた訳では無かった。
“優秀なボクサーからクラック中毒者に墜ちた息子”を立ち直らせてあげたい。
だからあそこまで『家族で』チャンピオンを目指す事に必死に拘り、ディッキーにばかり気を遣っていたんだろう。
……ケバくて口汚くて金に汚いのはまた別問題だろうけど。

そしてディッキー。
出所前、祈るような姿で階段にうずくまる彼の姿に涙が出た。
己の過ちでどん底まで墜ちた男が、再び這い上がりたいと一心に祈る姿に見えた。
弟から「兄貴とは組まない」と告げられるシーンはその後だったが、
本当は出所前のあの時点で、彼は自分を変える決意を固めていたんだと思う。

街を歩きながら甘ったるそうな青いクリームを舐め取るディッキーの、あの眼。
あの真っ直ぐな眼がいつまでも頭を離れない。
自分への甘さと決別し、前を見据えて歩く男の眼が。

「兄貴は俺の誇りだった」
「昔はな、昔は」
自分に残っていた僅かばかりの誇りを捨て去る——愛する家族を前進させる為に。

ディッキーのような過去の“英雄”がなぜ身を滅ぼしたかの過程が
あまり描かれていないと思ったが、そこは映画の雰囲気で分かる範疇だし、
安易な社会批判に逃げるのも本作にはそぐわない。
これは、現状を変える為に自らを変えるその勇気を讃えた物語なのだから。

人に前進する勇気を与えてくれる素晴らしい映画だった。
誇りは過去にではなく、未来にある。
振り返らずに進め、“クワッカー!!”

<2011/3/26鑑賞>

浮遊きびなご