今度は愛妻家 : 特集
豊川悦司&薬師丸ひろ子主演、行定勲監督の最新作「今度は愛妻家」。ぐうたらなダメ夫と、そんな夫を支える妻が、結婚10年目に迎えた“ある事態”から、本当に大切なものを見つめ直していく……。2010年の“映画初め”にももってこい、さまざまな人生の機微に触れてきた大人だからこそ楽しめる良質なラブファンタジーが1月16日より公開。見る人すべてが身近な人たちの大切さを実感し、涙で頬を濡らした後は、きっと心が温かくなっているはず……。今回は、そんな本作に夫婦・カップルの一般映画ファンおよびプロの映画評論家の双方から多くの共感の声をもらった。また、主演の薬師丸ひろ子のインタビューもお届けする。(文:編集部)
大切な思いを素直に伝えたい――「今度は愛妻家」が共感を呼ぶ理由とは?
ぐうたらなダメ夫・北見俊介(豊川悦司)と、気立ての良い妻・さくら(薬師丸ひろ子)。結婚10年目を迎えた2人が、重大な局面を迎える。とある理由から、いつもそばにいるのが当たり前と思っていたさくらの存在の大きさに気がついた俊介は……。
一見するとクールだが、子どものような言動でワガママを突き通す俊介を軽妙かつ繊細に演じる豊川と、変わらないかわいらしい魅力をふりまくさくらを演じる薬師丸。前半は、芸達者な主演2人の軽妙なやりとりが微笑ましく、見ていて思わず笑みがこぼれる。しかし、物語は後半で意外な方向へと動き出していき……。
■薬師丸ひろ子 インタビュー動画
まずはこの映画について、そして自身の役どころについて薬師丸ひろ子が語るインタビュー動画をお届け。
■映画ファン&映画評論家からも共感の声
eiga.comでは本作の夫婦・カップル限定試写会を実施。男性・女性の観客に、それぞれの視点で感想を語ってもらったので、その一部を紹介してみよう。
男女それぞれで、胸中に浮かぶ思いはさまざまだが、見終わった後は、きっと「当たり前と思っていた日常のささやかな幸せ」を実感するのは同じはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Q1:映画を見た感想は?
【男性編】
■言葉で伝えることの大切さを強く感じました。人を好きでいることって素敵ですね。(39歳/大学教員)
■男の身勝手さと弱さがとても上手に表現された映画だと思います。(50歳/会社員)
【女性編】
■泣けました。こんな展開になるとは思いませんでした。大切な人と一緒に見てほしいです。(29歳/会社員)
■同世代の人間として、これほど主人公に共感できた作品は久しぶりです。何度も切なくて悲しくて、泣いてしまいました。(46歳/会社員)
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Q2:男性は俊介に、女性はさくらに、それぞれに共感するところは? また男性はさくらを、女性は俊介をどう見ましたか?
【男性編】
■俊介の強がるところは、男の本当のもろさを感じた。仕事ではいくらでも強くなれるのに、好きな人には強がれても強くはなれないところが親近感を感じました。さくらはとにかくかわいい女性だと思いました。(50歳/会社員)
■好きだと素直に言えないところ。いなくなってはじめて気付くのは、男の性(さが)? さくらには素直に好きだと言ってほしい、そのいじらしさが薬師丸さんならではの良さでした。(36歳/会社員)
【女性編】
■さくらの気持ちが痛いほど分かります。実は同じ理由(子どものこと)で悩んだ経験があり、それが理由で離婚したことがあるからです。(39歳/会社員)
■さくらの「私がいなくてもやっていけるね?」という本心ではないことを言って夫に自分を忘れさせようとするところに共感。俊介は才能があるのに本気になれない気持ちは分かる気がしました。(26歳/会社員)
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Q3:この映画を見て、妻(彼女)や夫(彼女)に伝えたい言葉や気持ちは?
【男性編】
■実は僕も俊介と同じくらい君を思っているんだよ。(42歳/会社員)
■いつまでも初心を忘れずにいられたらいいね。(35歳/会社員)
■いつもありがとう。(50歳/会社員)
【女性編】
■ありがとうの感謝の気持ちは惜しみなく言葉に出して伝えたいと思う。(58歳/主婦)
■隣にいる誰かさんへ。「この映画を見て反省して、もっと私を大切に、今の幸せを当たり前だと思わないように!」。今日もつまらないことでケンカしたので……。(46歳/会社員)
■後悔しない生き方をしてほしいです。また自分もそうありたいと思います(36歳/会社員)
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Q4:この映画をみて、夫婦(または恋人)にとって大切なことは何だと思いますか?
【男性編】
■1日1日、ベストを尽くして悔いのないように。(41歳/会社員)
■お互いを思いやり、信じあうこと。(39歳/大学教員)
■「素直になる日」が必要だなと思いました。(50歳/会社員)
【女性編】
■相手のことを思いやることは当然のことだけど、それを言葉や行動で示してこその夫婦なのかもと思いました。(32歳/会社員)
■空気のような存在で、いつもいて当たり前と思ってしまってはいけない存在だと思いました。相手をどう思っているかは言葉に出して伝えなくてはいけないと。(26歳/会社員)
■毎日を大切に、仲良くありたいです。(29歳/会社員)
さらに今回は、eiga.comの「映画評論」コーナーなどでおなじみの映画評論家からも共感の声をいただいた。夫婦で評論家として活躍する垣井道弘氏&おかむら良氏が、劇中の夫婦から感じたこと、そしてこの映画に思ったことは?
売れっ子カメラマンの北見俊介は、一年近く、写真を一枚も撮っていない。彼は健康オタクで口うるさい妻に「食いたいものだけ食って死ぬなら本望だよ」と強がりをいう。禁煙を実行できない僕も、やはり同じようなことを口走ると思った。本心では妻に感謝していても、口から飛び出すのは裏腹の言葉や皮肉ばかりで、愛しているよなんてとても照れくさくて言えない。貯金が底をつきかけてもパチンコをしたり、毎日、虚しくブラブラしている俊介の気持がよくわかる。身近な存在だった妻との距離のとりかたが分からなくて、心の整理がつかないのだろう。そんな屈折した心情や後悔を、豊川悦司が軽妙で感情豊かに生き生きと演じている。事件から一年後のクリスマスに本音を吐露するクライマックスでは胸が熱くなった。石橋蓮司を筆頭に達者な俳優陣のテンポのいい会話とアンサンブル演技が素晴らしい。
ボーイ・ミーツ・ガールでもなく、熟年夫婦の物語でもなく、結婚して10年目というカップルの話はめずらしい。10年も一緒にいれば、相手のことがだいたい予測できるから、愛と毒が山盛りの会話もテンポがよくて笑えるし、その後で「夫婦っていいかも」としみじみする。でもこの頃になると、感謝とか思いやりがちょっとすり減って、気持を説明しなくなるような気がする。たとえ一緒に暮らしている夫婦でも、言葉で説明しないと気持は伝わらない。薬師丸ひろ子が好演するさくらが望んだように、旅行をすれば並んで星を見たいし、時には写真も撮りたいし、クリスマスツリーも飾りたい。一緒にイベントを楽しみたいという女性の気持を、行定監督がサラリと描いているのがうれしい。俊介のように言わなくても気持はわかるはず……というのは言い訳で、「愛している」とか「君がいないと寂しい」といったことは、相手に伝えて初めて生きるのだと思う。
夫婦や恋人はもちろんのこと、家族や友人など、人は知らず知らずのうちに必ず誰かと一緒に日々を生きているもの。そんな一緒にいるのが当たり前な人が周囲にいればいるほど、この映画は深く観客の心に訴えかける。
「言葉にできない想いを伝えたい」「もっと素直になって、あの人を大切にしたい」……この映画を見れば、きっとあなたもそんな気持ちになるはず。2010年、まずは「今度は愛妻家」で、そんな温かな気持ちに包まれてはいかがだろうか。