エグザイル 絆 : インタビュー
「PTU」「エレクション」などで知られ、現在、世界で最も注目される映画監督ジョニー・トーのハードボイルド・アクション「エグザイル/絆」。中国返還前夜のマカオを舞台に、5人のアウトローたちの意地とプライドを賭けた戦いをスタイリッシュに描いた本作について、映画評論家のくれい響氏がトー監督にインタビューを行った。本作のPRのために来日した主演アンソニー・ウォンのインタビューとともにお届けする。(文・構成:くれい響)
ジョニー・トー監督インタビュー
「いちばん大切なものは友情という価値観を表現したかったんだ」
──本作を撮ることになった経緯を教えてください。
「『エレクション』2部作(日本では2作目は映画祭上映のみ)の製作に2年間費やし、その後に自分がやりたいことも、撮りたい映画もわからない状況に陥ってしまったんだ。だから、撮影現場に着くまでは何も考えず、ノープランで撮ることのできる作品をやってみようと思い立った。すべて、その日の私の気分次第(笑)。だから、この映画は真っ白な画用紙を目の前にし、私が感じるままに画を描いたような特殊な作品なんだ」
──とはいえ、海外で監督が注目を浴びた「ザ・ミッション/非情の掟」の姉妹編ともいえる仕上がりですね。キャストが共通することもあると思いますが……。
「根本的に、私は男のロマンを描くことが好きだからね。それに、脚本というものが存在しないから、このキャストになっただけだ(笑)。私はあまり俳優に説明したくない人間で、フツウの役者ならそんな演出に困惑するだろう。だから、私の考えていることを、すぐ理解してくれる俳優がいい。互いを理解し合っているから、決して脚本がなくても、コミュニケーションできる。だから、私と彼らは黒澤明と三船敏郎のような特殊な関係かもしれないな(笑)」
──そんな信頼関係を築くキャストで、今回来日した2人を一言で称してください。
「アンソニー・ウォンはとにかく芝居が巧く、天才的な俳優だ。だから、監督なら誰もが彼を使いたいと思うことだろう。だが、なにかというと、すぐ怒る。だから、初めて組んだ監督は、誰もが面倒臭さに困惑するだろうな……(笑)。フランシス・ンは努力家で、いろんな芝居を作ってくる俳優。たとえば、同じシーンを10テイク撮った場合、10回とも違う芝居を演ってくれる。そういう意味では、監督より役柄を理解しているのかもしれない。だから、こちらはフィルムを回して、自分がほしいOKテイクを判断するだけ(笑)」
──監督自身が目指す映画とは、どんなものなのか教えてください。
「特にアクション映画どうこうじゃなく、人間の姿をしっかり描いている映画だ。CGばかりの映画は、個人的に好きじゃない。最近は山田洋次監督の『母べえ』や、ジャ・ジャンクー監督の作品が好きだ。今回の『エグザイル/絆』では、金・女・権力が入り混じる、どんなに汚い世界でも、いちばん大切なものは“友情”という価値観を表現したかったんだ」
──本作を手掛けたことで、監督のなかで心境の変化はありましたか?
「『エレクション』を撮った後は、もう香港を舞台した作品は撮れないかも、と思ったほどだったが、今ではそんな考えはない。それに、(本作後に撮った)『僕は君のために蝶になる』のように、他人の書いた脚本をまったく手を加えずに撮ることもできた(笑)。つまり、自らの空間を広げる新たな試みができるようになった。現在はジャン=ピエール・メルビル監督の『仁義』を、オーランド・ブルーム主演でリメイクしようと動いている。当初はハリウッドで撮る話もあったが、もちろん大好きな香港とマカオで撮るつもりだよ」