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エグザイル 絆 : インタビュー

2008年12月2日更新

インファナル・アフェア」以降の香港映画界において、ますます大きな存在になっているアンソニー・ウォン。香港映画界の新たな帝王ジョニー・トー監督とともに作り上げた傑作「ザ・ミッション/非情の掟」に続き、「エグザイル/絆」で再びトー監督と共犯関係を結んだ彼に、撮影の裏話やトー監督について話を聞いた。(文・構成:編集部)

アンソニー・ウォン インタビュー
「トー監督は我々のような役者を必要としているんだ」

西部劇の話をしたすぐ後にトー監督が撮ったのがこのシーン
西部劇の話をしたすぐ後にトー監督が撮ったのがこのシーン

──ジョニー・トー監督とは、「ザ・ミッション/非情の掟」以来になりますが、トー監督の変わったところと、変わらないところは?

「最初、監督からは『ザ・ミッション/非情の掟』の続編といわれたんだけど、やっぱり『ザ・ミッション』の続編とは考えずにやってくれと言われたりして、監督自身がすごく葛藤していたように思う。でも彼の本心はやはり続編だと思って作ったんじゃないかな。ただ版権の問題があって、『ザ・ミッション』の続編と言い切ることは出来ないみたい。だから僕ら内輪では、完全に続編という風に考えていたよ。で、前回と今回で共通しているところだけど、キャラクターたちの関係や男たちの友情を描いたテーマだね。一方、異なる点は撮影スタイルと俳優たちの関係が前と比べて成熟したところかな。今回は俳優5人がお互いに馴染んでしまって、暗黙の了解で撮影が進むということが多かったんだよ」

監督デビューも考えているという アンソニー・ウォン
監督デビューも考えているという アンソニー・ウォン

──今回は9カ月間も撮影期間があったということですが、「ザ・ミッション/非情の掟」のときも長かったのですか?

「『ザ・ミッション/非情の掟』のときは2カ月くらいで、今回と比べたらだいぶ短かったよ。まあ「ザ・ミッション/非情の掟」の時はまだちゃんとしたストーリーラインが用意されてたんだけど、今回はそれすらなかったからね。実際、クランクインしたら、撮ってすぐに休みに入ったりしていて、いつ撮影が再開するかわからない状態。一部の役者たちが他の仕事もやりたいから撮影の期限を聞くんだけど、トー監督は答えないから、当然怒る。でもそのうちに、怒っていても仕方ないし、どうせ待たされるんだから皆で楽しくやろうということになって、最終的に9カ月かかっていたという撮影だったね(笑)」

──監督に恨み言を言ったりはしたんですか?

「もう冷戦状態だった。僕らは監督と口聞かないし、監督も僕らをほったらかしてたからね。現場では互いに大食い大会みたいな感じになって、妙な関係だったよ。あるとき、屋上で撮影があったとき、僕らが寒さをしのぐために羊肉でしゃぶしゃぶを作って食べてたんだ。そしたら、それを横で見ていた監督が対抗するかのように大きなバーベキューセットを持ってきて肉を焼きだしたんだよ。何か食べ物で闘っているような感じだったね(笑)」

──それは、そういった緊張関係を画面に出すためのトー監督の演出の一環だったのでしょうか?

「僕はそうだったんじゃないかと思ってるよ。彼はわざと距離をとりながら、役者たちの声を盗み聞きするんだよね。そして、その話題になっていたことを勝手にシナリオにして撮影するんだ(笑)」

撮影中は役者と監督の間に立って 仲を取り持っていたそうだが……。
撮影中は役者と監督の間に立って 仲を取り持っていたそうだが……。

──撮影中はアンソニーさんが監督の通訳のようなことをやっていたと聞きましたが?

「実は僕はトー監督とは一番会話や交流がない間柄なんだよ。けれども、どういうわけか頼られていて、周りの役者たちをなだめないといけなかったんだ。僕よりも周りの方が怒ってたからね。僕は怒りを通り越して諦めてるし、怒っても仕方ないとわかってるから、仕方なく通訳のようなことをやったわけで、この映画の中で僕がやった役と同じなんだよね。僕が演じたブレイズはいつも『どこに行く?』と聞かれるけど、こっちも『知らないよ』って感じなんだ(笑)」

──それでも、トー監督に呼ばれたらまた出演したいと思うわけですよね。

「出演したいも何も、日本から帰ったら、また彼の映画の撮影だよ! 今度は9カ月間の撮影にならないことを祈ってるんだけど、どうなるかねえ(笑)」

──この「エグザイル/絆」は、レオーネや黒澤、ペキンパーといったアクションの巨匠たちのテイストが詰まった作品ですけど、やはりアンソニーさんもそういったことを意識して演技されたのですか?

「まず言いたいのは、トー監督は黒澤明監督の大ファンだということ。単に黒澤監督の映画を好きなだけじゃなくて、現場でも黒澤監督のような格好をして、黒澤監督のように振る舞うんだ(笑)。帽子や洋服、歩き方まで真似してたよ。僕は8割方『ああ、ああいうレオーネやペキンパーが昔撮ったような映画が撮りたいんだな』というのが分かってたので、撮影中にそういった西部劇の話を少ししたら、監督はすぐにこの日本版ポスターの撮影を始めてね(笑)。思いついたら、すぐに行動というよりは、目にしたら何でもすぐ撮るような感じなんだよ。さっき、屋上のバーベキューの話をしたけど、あのときも、すぐに食事のシーンを撮ろうということになったんだ(笑)」

黒澤マニアのジョニー・トー監督
黒澤マニアのジョニー・トー監督

──インスピレーションにまかせて撮るというスタイルのようですけど、撮って使わないというシーンが結構多いんじゃないですか?

「いや、それがそうでもないんだよ。ほとんど使わないショットはなくて、しかもテイク1で終わる。まあ、編集が人一倍苦労してるんだろうけど」

──一緒に仕事をして色々苦労しているようですが、あなたにとってジョニー・トー監督の魅力とは?

「彼は巨匠だからねえ(笑)。誰もが黒澤監督と仕事をすると苦労すると分かっていても、黒澤作品に出たがるのと同じで、挑戦しがいのある監督だよね。でも、彼は我々のような役者を必要としているんだ。逆に言うと、我々のような役者がいないと彼の映画は成り立たないんだよ(笑)」

>>ジョニー・トー監督 インタビュー

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