「非正規戦闘の恐ろしさ。延々と続く緊張感」ハート・ロッカー わたぼうさんの映画レビュー(感想・評価)
非正規戦闘の恐ろしさ。延々と続く緊張感
過去にイラク戦争の映画は数あれど、ここまでストイックな映画はなかっただろう。
本来、戦争とは国家対国家で行われある程度の準備をして始められる。
だが、国家対国際的テロ組織(もしくは現地民)という構図での非正規戦闘(いわゆるゲリラ戦)ではルールや常識なんて絶対に存在しない。
街中を軽装甲車で走っていても、いつ銃撃されるか。どこで爆弾が爆発するか分からない。基地に帰るまでは安心できない。常に命を狙われ、誰が敵かも分からない。
劇中でも黒人兵士サンボーンが現地民を見て「誰が誰か区別なんてつかない」と述べていた。
そんな状態が任務に就いてる間はずっと続くのだから、精神的なストレスは半端なものではない。
今作では、登場人物にほとんどと言って良いほどスポットを当てていない。
多少の過去や私生活は覗けるがそれは最低限のもので、退役後の生活や家族についてはほぼ皆無である。
これは意外と珍しい。一個人としての活躍には意味がなく、一兵士として危険な任務をこなす様を描いているのは人気ゲーム作品のコールオブデューティに似ている。
明確な終点がない故の無限とも思える緊張が生み出す重厚さは、自分が見てきた映画の中でも随一で、「ユナイテッド93」(9.11テロでハイジャックされ、目的地に到達できず平野に墜落した旅客機の内部を描いた作品)に似ている。とにかく緊張で息が詰まり、気持ち悪くなってくる。
「戦争は麻薬だ」という言葉が最初に流れるが、それは見ているうちに分かってくる。主人公はまさしく戦争中毒だ。
愛する妻や息子もいて、退役しても英雄扱いされるはずなのに、任期が終わればまた別の部隊に参加して爆弾処理を続ける。
彼が戦場を去るのは、地球上から戦争がなくなるか彼が死んだときだけだろう。