「平和じゃ何も選べない。」ハート・ロッカー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
平和じゃ何も選べない。
今年のオスカー争奪戦で、あの「アバター」と対決。
監督は元・夫婦という話題も手伝って予想は白熱、
どっちだ?どっちだ?という感覚でその日を迎えた。
せっかくだから授賞式前に今作を観ておきたかった
ので、前日に観に行った。
今はもう結果が出ているので言わずもがな、だけど
正直私だったら、やはりアバターよりこっちを選ぶ。
まるで対極にあるとも言っていい2作品となったが、
やはりストーリー性ではこちらの方に私は惹かれた。
観る人によって様々な感想をもたげる作品だと思う。
ダラダラと駐留兵士の日常を描いただけではないか。
そんな観方もある。ましてやこれは2004年当時の話
であり、公開も2年ほど先延ばし(オバマ政権になる)
にしていたんだそうだ。こんな作品がスパーっと賞を
とってしまうのだから、キャメロンもさぞ悔しいだろう^^;
おかしな話になるが、今作のキャラクターでいえば、
K・ビグローが鋭い直感で揚々と突き進むウィリアム、
J・キャメロンが手堅く優位に賛同を得るサンボーン、
そんな感じ?
今作が描いたのは冒頭の言葉「戦争は麻薬だ」の通り、
爆発物処理班長として任務を遂行する中隊のリーダー、
ウィリアムの行動によって描かれる。彼を補佐する
サンボーン、エルドリッジの両名は残り少ない日々の
任務を無事に終えて帰国したかったのだ。ところが…。
前リーダーとは打って変わり向こう見ずな行動をとる
ウィリアムに、毎回、死の恐怖を覚えるようになる。
「こいつと一緒にいたら俺たちも死ぬ」と殺意まで抱く
サンボーンだが、任務を遂行するうちに、彼と奇妙な
連帯感が芽生え始める。訥々と任務をこなしあと少し、
となる彼らだが、冷静なウィリアムがある行動に出る…
冒頭から爆発物処理の映像で始まる。
そこからしばらくは、ずーっとその緊張感に包まれる。
怖い。身体がジンジンする。いつ爆発するか?その
起爆スイッチを、どこの誰が押すのか?分からない。
市民とテロリストが混ざり合う町中でそれは繰り返され
そこへ防護服ひとつに身を包んだウィリアムが単身で
意気揚々と乗り込むのだ。こんな上司、絶対に迷惑だ。
聞けば過去に873個も爆弾を処理したツワモノらしいが、
だからといって仲間のことも考えろ!?なわけである。
彼の腕はさすがに確かで次々と爆弾を処理していくが、
そんな映像がずーっと続くのではなかった。緊張感は
意外な方向へ向かう。砂漠での銃撃戦。子供の出現。
一気にペースダウンか?と思わせて恐怖の人間爆弾、
自爆テロへと話はなだれ込む。え…?どうなるの?と
先の見えない暗闇(まさに)で観客も足止めされ戸惑う。
ラストまで観て、そうなのか。と思ったのは、
ウィリアムがスーパーで子供のシリアルを買う場面。
あれほどの爆弾の前で切るべき導線を易々選ぶ彼が、
棚に並んだ無数のシリアルからたった1つを選べない。
(むしろ、ここで火がついたか)
非日常が日常となり、もはやそれなしで生きられない、
まさに中毒患者となった兵士の姿を鮮やかにみせた。
反戦映画とも思えないし、英雄ものでもない。
原理と過程。を淡々と見せた重いスリラーに感じる。
(さらに観終えた後の疲れが記憶と共に残る。さすがだ)