ウルフマン : 映画評論・批評
2010年4月13日更新
2010年4月23日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
精神と身体、人間性と獣性は、果たして分離可能なものなのか
狼男は屋上に追われ、グリフォンの形をしたガーゴイルに跨って、満月に向かって雄叫びを上げる。この雄叫びの下に広がるのは、世紀末のビクトリア朝ロンドン。切り裂きジャックが跋扈し、エレファント・マンの見せ物小屋が人気を博す闇の都だ。この名場面に陶然とするだけでも一見の価値はある。
そう、この物語のもうひとりの主人公は、この時代。人々が科学的知識という光で世界を読み解こうとしながら、その光によって生じた濃い闇にも惹かれたこの時代、狼憑きは、村ではジプシーの呪いだと噂されるが、ロンドンでは精神的疾患と診断されて治療を施される。だが、精神と身体、人間性と獣性は、果たして分離可能なものなのか。人間と獣はどこで分かれるのか。映画はこうした問いをストレートにセリフの形で突きつけてくる。狼男がGCではなく、名手リック・ベイカーによる特殊メイクで表現されるのは、このテーマに沿う意味でも正しい。
途中から、父と息子の葛藤のドラマが強調されて物語は奇妙な方向に向かうのだが、これも当時の最先端科学だったフロイトの精神分析へのオマージュということか。
個人的には、狼男映画ならニール・ジョーダンと英国の異色作家アンジェラ・カーターによる暗い愉悦に彩られた赤ずきん再解釈「狼の血族」がベストだが、今回の狼男が住むゴシックな館、彼が彷徨うロンドンの暗い夜も悪くない。
(平沢薫)