タイトルから単純にサスペンスホラー映画などと想像して見ると、裏切られた気分になりかねないが、考えオチの心理ホラーといえば頷ける。映画は、アフガンで誤認連行され拷問を受けたパキスタン系イギリス人の告発によって、世界的な問題となった米軍グァンタナモ基地の収容所を裏から告発する内容を持ったサスペンス作品。キューバ東南グァンタナモ湾の治外法権地にある米軍基地の収容所で、連行したイスラム関係者に対していったい何が行われているのかを米兵側からの視点で描いている。前述の告発をもとに作られたマイケル・ウィンターボトムの「グァンタナモ、僕たちが見た真実」が表側なら、この映画はまさに裏から見た収容所の真実と言っていいだろう。
ドキュメント風ではなくあえてサスペンス仕立てで描かれており、ハリケーンに紛れて基地から脱走してきた男がハバナの海岸に登場する巻頭からかなりの時間は、この男がいったい何者なのかがまったく明かされない。収容所での拷問や仲間の死の幻影に苛まれ続ける男。見ているこちら側はまず、収容され拷問を受けていたイスラム関係者だろうと想像してしまう。それを裏付けるかのように、男は被害者意識に凝り固まっており、匿ってくれるキューバ人にも時折疑いの目を見せる。しかしながら、幻影と現実の境を曖昧に見せる演出が、同時に、この男に秘められた謎の存在を確信させる。そして米軍関係者らしき白髪の米国人が登場するあたりから、一気に謎が膨らみ、映画全体のおおきな仕掛けともいえる男の謎に対するおおよその予想がつきだす。
匿ってくれるキューバの女性ダンサーへの愛情からしだいに正気を取り戻してゆく男。2人の奇妙な街行きは面白い。しかしこの恋は現実逃避でしかないということ。男の逃れられない現実が、新たな悲劇を生むことになる。まさにこれは収容所での拷問にも等しい。ラストで男の謎はいとも簡単に解けるが、そこには暗澹たる現実がひたすら漂い続ける。
この映画の原案を書き、製作したプロデューサーは「クライングゲーム」の吉崎道代。この人はやっぱり凄い。サスペンス仕立ての展開や大きな謎を核に据えた構成が成功したとはいえないが、作品自体のスピリテュアルと70年代のアメリカンニューシネマをほうふつとさせるラストは捨てがたい。