「良質な娯楽映画」ザ・バンク 堕ちた巨像 かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
良質な娯楽映画
自ブログより抜粋で。(ほぼ全文)
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『ザ・バンク 堕ちた巨像』との邦題から原題も『THE BANK』かと思いきや、いきなり『The International』とメインタイトルが映写されて目が点になった。直訳すると“国際的組織”ってことで、裏世界で暗躍する世界的メガバンクとそれに対抗する国際刑事警察機構・インターポール捜査官とを掛けているんだろう。実際に映画を観ると間違いなくこちらの方がしっくりくる。
100年に一度といわれる今の金融不安に関連づけて世間の話題を煽りたい日本の宣伝部の陳腐な思惑が映画始まって早々にしらけさせてくれてどうなることかと別の意味での不安を煽られたが、映画自体はかなり骨太なしっかりした作りでけっこう楽しめた。
(中略)
原題どおり捜査のために世界中を飛び回る展開は地味な内容ながらも映画的な醍醐味に満ちていて見応えたっぷり。
普段ロケハンを仕事としている自分としては映画を観ながらそのロケーションを気にすることも少なくないのだが、本作では久々にそのロケ地選定に惚れ惚れとさせられた。
ルクセンブルクにある巨悪の殿堂IBBC本部のガラス張りの近代建築や、緊迫の追跡シーンが繰り広げられるイタリア・ミラノの街並み、この映画一番の見せ場となる白塗りのグッゲンハイム美術館、クライマックスのトルコ・イスタンブールに建ち並ぶ屋根。
色調的には渋いトーンで統一させながらも作品を盛り上げる陰の立て役者となっている国際色豊かなロケ地の数々に映画の背景となるロケーションの大切さを思い知らされる。
内容自体は安直な邦題から連想されるような金融危機とはほとんど関係なく、金の力で世界を支配しようとする巨大銀行と組織内からも孤立している捜査官との対決を描いた単純明快なサスペンスで、あまりに明瞭すぎてひねりが足りない印象すら感じてしまう。
また、敵は世界に暗躍する巨大銀行といいながら、その全貌は娯楽映画らしくわかりやすくコンパクトに整理されすぎで、結果的に“底知れぬ怖さ”もスポイルされてしまっており、一部の幹部の首根っこをつかむのに躍起になっている一捜査官という構図しか見えてこないのも物足りなさを助長していると言える。
とはいえ、要所要所の見せ場でキモは押さえており、ある重要人物の狙撃シーンやそれまでの静かな雰囲気から一転するド派手な銃撃シーンでは小さなひねりが最大限の効果を上げていて思わず身を乗り出しそうになるほど。
クライマックスに向けての展開も、多くは語らず、観客を信頼した大人な演出に監督の本気度が伺えて、子供だましではない本格的な映画を観た気にさせてくれる。
観終わってみればそれなりに満足させてくれる良質な娯楽映画だったのに、結局一番ダメダメだったのは、最初に触れたように『ザ・バンク 堕ちた巨像』などという甚だ野暮ったい邦題だったと気づかされる。
思い出してみれば、主演のクライヴ・オーウェンは、傑作近未来SF『トゥモロー・ワールド』(2006年 アルフォンソ・キュアロン監督)でも的外れな邦題で損をしていた悲しい過去の持ち主。
こんなごまかしのタイトルで日本のファンを裏切ってばかりでは、無精髭がやたらと似合うオーウェンの渋い顔が、ますますしかめっ面になるんではなかろうかと、いらぬ心配をしてしまうではないか。
まったく、こんな邦題しか思いつかない宣伝部にこそ“コンサルタント”が必要なんじゃなかろうか。