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三浦和義氏が逮捕されたのは1985年、東京地裁判決が1994年だった。この映画の原作は11話連作形式の小説で、第1話の発表が1989年、完結が1992年。小説がロス疑惑と、これに対するメディアの過熱報道に全面的に影響されていることは明らかだろう。
三浦事件はグリコ事件とともに劇場型犯罪というものを知らしめ、宮部は本作や『模倣犯』(2001)でそれを活用してベストセラーを生み出したのだった。
生憎、『模倣犯』の映画化(2002)は大変な自爆映画となり、宮部が激怒したとかしないとかが話題になったのだが、本作の場合は2007年にTVドラマとして制作され、好評により劇場公開されたという。
小生は宮部作品を読んだことはないものの、そのストーリーテラーぶりは鳴り響いているから期待して見た。
まず原作が連作短編だから登場人物がたくさん出てきて戸惑わされる。彼らは軸となる殺人事件と関わりがあるとともに、それぞれ個々のドラマを持っており、恐らく原作ではそのドラマがしっかり描かれているのだろうが、映画ではちょっとしたつまみ食い的な扱いになっていて、中途半端な印象を受ける。
軸となる保険金殺人については、保険金狙いのカップルには完全にアリバイがあり、無関係な第三者の共犯がさも事新しいことであるかのように扱われているのは、ちょっと鬱陶しい感じがする。犯罪の外部への依頼などよくあることだし、刑法を勉強すれば共謀共同正犯などは常識だからだ。
ただ、映画ではカップルの意思疎通が必ずしも十分ではなく、そのために無用な名刺騒動まで起こしている以上、共謀度合いが不十分で女の方だけ無罪になるのではと思わされるが、その説明が不足している。
また、実行犯は恐らく自己顕示欲が強いのに、社会に埋もれている平凡な男という設定だろうが、その人物造形に説得力が乏しい。
語り手が財布というのも小説では生きているのだろうが、映画ではほとんど意味が感じられず、むしろ混乱のもとではないか。
最後に、自己顕示欲の強い人間は犯罪ではなくユーチューバーを目指し、ワイドショーなどのメディアも犯罪容疑者に積極的にコミットしたがらない現在では、この劇場型犯罪を扱った作品は残念ながら時代錯誤の感を免れない。
先月から『模倣犯』の台湾版リメイクが配信され始めたらしいが、果たして日本で話題になるものかどうか、ちょっと興味がある。