ウォンテッド : 映画評論・批評
2008年9月9日更新
2008年9月20日より日劇1ほかにてロードショー
ヤリ過ぎであることを恐れないロシア人監督のハリウッドデビュー作
ティムール・ベクマンベトフ。この名前の持つエキゾチックな響きは、彼の「ナイト・ウォッチ」「デイ・ウォッチ」が発する「異質なもの」と共鳴する。自国ロシアで驚異的ヒットを記録、日本でも公開されたこのSFアクション連作の夜の気配は、明らかにハリウッド製の夜とは異なる質感を持っていた。
ベクマンベトフ映画の手触りは、粗い。ハリウッド映画が無意識のうちに目指してしまう「洗練」とは無縁。ヤリ過ぎであることを恐れない。だからだろう、言葉にすれば既視感のある「ナイト・ウォッチ」の疾走するトラックを片手で突き飛ばす男や、「デイ・ウォッチ」の高層ビルの壁面を疾走する自動車が、彼が描くと初めて目にする事件に変貌するのだ。
そんな彼をハリウッドが放っておくわけもなく、さっそくハリウッドに迎えられて撮ったのがこの「ウォンテッド」。なのだが、少しもハリウッド化されてないのがこの人のスゴさ。ハリウッドの編集マンが2名も投入されて、映像のリズムはタイトになったのに、その荒々しさ、野蛮さは不変。原作コミックのブラックなジョーク風味も、ベクマンベトフと相性がよかったようだ。今回の新ワザは「アサシン・モード」。ジェームズ・マカボイ演じる特異体質の暗殺者の体内感覚を、視覚だけでなく「聴覚」を刺激するという演出法で描き、暗殺者のアドレナリン増量心拍増加気分をたっぷり体感させてくれる。
(平沢薫)