「監督、スタッフ、俳優たちの“イキゴミ”を感じられる作品。」イキガミ kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
監督、スタッフ、俳優たちの“イキゴミ”を感じられる作品。
作家星新一の初期作品「生活維持省」に内容・ストーリー・表現が酷似している著作権問題にまで発展しているとのこと。ファンが多い作家であるから問題はこじれそうな予感がしますが、戦時中の“赤紙”をモチーフにしていることや、死亡予告書を受け取った家族と本人という視点の差を考えれば、作品のメッセージが損なわれることのないよう穏やかに解決してもらいたいものです。
原作も読んだことなければ、「生活維持省」だって知らないのだけれど、予告の段階で期待しまくりだった本作。何しろ、漫画が原作であるにもかかわらず、国家、政府を批判するかのようなテーマ、それに“イキガミ”を受け取ったら24時間で死ぬという重いテーマがあるのです。設定は架空の国であるが、“自由、平和、豊かな生活”に守られた国という現代の日本に通ずる世界。日本とアメリカが戦争していたことも知らない若者もいる現代において、とても受け入れられやすい設定になっているのはいいことだと思う。
厚生保健省が管轄する国家繁栄維持法。単に人口を減らすために殺すのではなく、施行することによって命の尊厳を認識させ、犯罪や自殺者を減少させることが目的らしい。殺されるのは千人に一人なんだから、そんなに激減することはないだろう!などとバカバカしさに冷やかに鑑賞していたのですが、映画が終わるころには全く自然に受け入れられていた・・・これも洗脳というヤツか?と、架空世界に馴染んでしまった自分に驚き。これは驚愕の交通事故シーン以上なのかも。
その映画自体の洗脳効果は死の宣告から24時間、若者たちが何をするか?という感動エピソードによって涙腺破壊されるためかと思います。第一エピソードでのTV生歌番組にて金井勇太演ずる元ストリートミュージシャンが歌う「みちしるべ」。いい歌だな~などと歌詞の内容を吟味しながら第二エピソードへと移ると、保守系議員の風吹ジュンが演説する内容と若干リンクしてしまう。“生きるとは何だろうか?”という問いかけと“国家のため”と息子の死が誇りであると演説する姿が、下手すると同化してしまう危険もあるのだ。本来ならば感動せずに批判的に見なければならないのに・・・
もちろん主人公の公務員藤本(松田翔太)は国繁に疑問を抱いてるし、劇団ひとりなんかは思想的に問題があるとして再教育させられる。『スカイクロラ』の記事でも書いたように“逃亡するか会社を破壊しにいく”ことは、徹底した思想教育があると思われることや予防接種が小学校入学時だというとで避けられないように思う。もし逃げるのなら親が子供を小学校へ入学させないようにするしかなさそうだ。
成海璃子と山田孝之、そして金井勇太。彼らの演技に感動してしまったら、あなたはもう国家繁栄維持法支持者・・・とまではいかないにしても、こうした感動話で簡単に洗脳されるんじゃないかと空恐ろしくなる。事実、公式サイトのアンケート結果ではすっかり受け入れている中高生が見受けられるし、法律を作った政治家を殺しにいくなどといった意見は少数。千分の一という確率も絶妙だったのかもしれません。
不満が残る点といえば、ワクチンの中の風吹ジュンが元思想犯だったという話なんて必要ないこと。設定が無謀すぎることもあって数あるツッコミどころは容認できても、さすがに成海璃子には“お前”とか“最高”とかって漢字は読めないと思う・・・