ブラインドネス : インタビュー
「シティ・オブ・ゴッド」「ナイロビの蜂」のフェルナンド・メイレレス監督、待望の監督第3作は、ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」を映画化した「ブラインドネス」。今年のカンヌ国際映画祭ではコンペティション部門に選出され、かつオープニング作品として上映。東京国際映画祭にも特別招待されるなど、世界各国で注目を集めている。突然、目の前が真っ白になる原因不明の奇病が蔓延し、隔離された患者たちは次第に人間の醜い本性をむき出しにしていく世界。そんな中で唯一目が見える女性を演じた主演のジュリアン・ムーアが来日し、インタビューに応じた。さらにジュリアンと共演した木村佳乃、監督のフェルナンド・メイレレスのインタビューもお届けする。(取材・文:編集部)
ジュリアン・ムーア インタビュー
「人というのは、“これで大丈夫なんだ”とわかっているふりをしたくなるのよ」
――劇中で唯一目が見えるキャラクターを演じる上で、“見えるものの責任感”を感じたということですが。
「最初、彼女は自分と夫のことしか考えていなかったけれど、周りで人が死んでいくのを見て、『なぜ私は何もしなかったのだろう? このまま見ているだけではいけない』と思い、行動を始める。彼女は自分や仲間を守るために人を殺してしまい、それはある意味で英雄的な行動であると同時に、“戦争”を始めてしまったことでもある。でも、成功が約束されてはいないけど、彼女が何かをすることによって世界に変化が起きる。そうした行動を起こすことで、彼女は自らの責任を果たしていったのだと思う。彼女を演じるに当たっては、あまり先を急がず、成長し変化していく彼女のリアクションに沿って、追っていくかたちで演技していったわ」
――本作に限らず、強い女性を演じることが多いと思いますが、作品選びのポイントは?
「脚本、それから監督も大切。私が今まで仕事をしてきたような監督たちと仕事ができて、とてもラッキーだったと思う。私はストーリーの中に入りたい、作り上げられた世界の一部に入りたいと思っていて、そのストーリーをしっかりと支える、強い視点をもった監督に惹かれるわ」
――では、フェルナンド・メイレレス監督はいかがでしたか?
「とても静かな人。自分の欲しいものをしっかりと伝えてくるけど、全然傲慢さがない。驚いたのは、リハーサルや撮影の合間におしゃべりしている時でもカメラが回っていたこと。彼はそれほどリアリスティを求めているの。映画というものは、やはり多少は誇張されたもので、普通の生活というのはそんなにドラマチックじゃない。でも彼は、『シティ・オブ・ゴッド』の子供たちから素晴らしく生き生きとした衝撃的な演技を引き出したように、人間的な、現実的なやりとりをとらえたいと思ってる。それは素晴らしいことだと思うわ」
――ハリウッドでは年齢が上がるにつれて女優の役柄が少なくなっていくと言われますが、あなたはエンターテインメント作品とアート作品とのバランスもうまく取れています。その秘訣は?
「先ほども言ったけれど、やはりラッキーだったということだと思うわ。女性は特に役が少なく、面白い仕事、映画を探すこと自体が難しい。若い女性であっても競争が激しく、才能のある女優はたくさんいるのに、役があまりない。そういう中で映画に出てこられたことはすごくラッキーなことだと思うし、これまでやってきた仕事全てを楽しんでいるけれど、それはすごく珍しいことだわ」
――この映画は、「人は目は見えていても、真実は見えていない」ということのメタファーでもあると思うのですが、この映画に出て気付いたこと、日頃から物事が見えていないんだなと思ったことはあるでしょうか?
「そうしたことは年中あるわ(笑)。私たちは、自分が理解していたつもりが、実はそうではなかったということが後でわかってショックを受けることがしょっちゅうあるんじゃないかしら。毎回、発見の連続よ。人というのは、“これで大丈夫なんだ”とわかっているふりをしたくなる。けれども、そうして目を背けていると、いつか心配していたことが起こってしまい、嫌でも気付かされる。例えば、アメリカでは特にそうなのだけど、世界的な金融不安も時間の問題だと言われていた。それでも何もせずにいて、いま実際に恐慌が起こって大騒ぎしている。わかっていて、でも何もしないで、最終的に痛手を負うということをずっと続けている。それは戦争、紛争といった問題もそう。気付いているけれども気付かないふりをしているということは、国家間の大きなことから日常の小さなことまで、すごくたくさんあると思うわ」