「涙は流れても、心に留まらない作品。」西の魔女が死んだ 幻巌堂さんの映画レビュー(感想・評価)
涙は流れても、心に留まらない作品。
いち早く自我を持ってしまったがために、同世代の子供たちの世界にすんなり入ってゆくことができなくなった少女まい。そんな彼女に、世の中の摂理よりも大きく尊い自然の摂理を、いかにも宗教(キリスト教)的に、行動と観念の双方向からゆっくりと説いてゆくおばあちゃん。この祖母と孫娘の交流が主題となる梨木香歩のベストセラーの映画化なのだが、結論を言うならまさに平均点の作品。全体的に悪くはないけれど、映画的楽しさ・面白さという点では、かなり物足らないのだ。
監督の長崎俊一にとっては、初めてといえるファンタジーというか、少女の目線で見せるドラマ。それにしても今頃になって、なにゆえに彼はこの作品の演出をうけたのだろうか。今さら映画監督としてエンタ-テインナーを目指そうなんてわけでもないだろうし、「誘惑者」や「ナースコール」などの秀作からしても、色合いが違いすぎるし。まさか、ベストセラーという冠に変な色気でも感じたなんてことはないだろうに。
確かに語り口にはそつがなく、じんわりとした盛り上げ方も上手いし、ラストでは心地良く涙腺を刺激してくれる、手堅い仕上がりだといえよう。しかしながら、期待以下ではないものの、それ以上のものはなにもない。映像的な大胆なアイディアや試みが、ほとんどといっていいほどないからだ。なにか、原作のダイジェスト映像を見せられた気さえする。
脚本の矢沢由美は、長崎俊一監督の妻であり女優の水島かおり。彼女にとって脚本家としての仕事はこの映画が第1作となる。演出を担当する夫との協作とはいえ、出来上がりはかなり素人っぽい。良く言えば無難にまとめたと言えないこともないが、台詞(特におばあちゃんの台詞)は話し言葉としてこなれていないし、何よりも映画的アイディアが乏しすぎる。例えば、祖母から学ぶこと。ジャム作り、足踏み洗濯、ニワトリ小屋での卵取りなど、原作での大きなポイントははずしていないが、文章で描かれた以上の映像世界の創造の余裕はなく、話を追いながらまとめるのが精一杯といった感じが強い。また、演出にもかかわることだが、まいにとって重要な人物であるゲンジの描き方にはもっと工夫がほしかった。演出はもちろんキャスティングさえも、見るからにわかりやすすぎて、なければならないはずの人物に隠された含みが切り落とされてしまっている。もうひとつ、おばあちゃんが魔女であることをまいに話すシーンも、切り出し方があまりに唐突すぎて、かなり違和感を感じてしまう。
原作のイメージ通りというわけではないが、まいや祖母のキャスティングに文句はない。ただ、まいの母役のりょうはちょっと違う気がする。水島かおりが演じた方がよかったんじゃないか。
それにしても長崎俊一は、何処を目指しているのだろう。