劇場公開日 2008年8月30日

20世紀少年 : インタビュー

2008年8月27日更新

第2回目の特集となる今回は、浦沢直樹のデビュー当初から、ほとんどの作品に携わり、「パイナップルARMY」「MASTERキートン」「MONSTER」といった名作漫画を世に送り出してきた長崎尚志氏のインタビューをお届け。この「20世紀少年」も原作のプロット共同制作者として携わり、映画版の企画・脚本も担当した長崎氏に漫画と映画の違い、脚色の苦労などを語ってもらった。(取材・文:編集部)

長崎尚志氏インタビュー
「最初は本当に雲をつかむような話でした」

脚色には、実に6年も費やしたという本作
脚色には、実に6年も費やしたという本作

■映画版「20世紀少年」に携わって

──最初、映画化のオファーをきいて、どう思いましたか?

「98年に連載が始まった当初には、たくさんオファーを頂いていたのですが、浦沢さんは終わりが見えないと映画化は絶対に嫌だっていう人なんで、全部お断りしていたんですね。で、終わりが見えて、そろそろ映画化を解禁しようかとなったときには、逆に依頼が全然来なかったんです(笑)。まあ、すぐに今回の製作委員会の方が来られて検討を始めたら、突如オファーが続々来た。全部良い条件だったので困ってしまって、多くの方のお話をお断りさせて頂いたんです。どういう気持ちかと聞かれれば、申し訳ないという気持ちですね(笑)」

──今回の日本テレビ主導の製作委員会に乗っかった決め手は何だったのでしょうか?やはり最初から3部作、製作費60億円というのが大きかったのですか。

「それは違います。最初にオファーしてきたプロデューサーの方が、この人にOKを出さないと死んでしまうんじゃないかっていうくらい必死だったということと、その方の上司だった佐藤敦プロデューサーを人間として気に入ったからです。この人だったら、話を聞いてくれるんじゃないかっていうところに賭けたんです」

「大脱走」と露映画「誓いの休暇」 が大好きだという長崎氏
「大脱走」と露映画「誓いの休暇」 が大好きだという長崎氏

──3部作ということは、それほど大きくなかったというわけですね?

「その話は最初からありましたがあまり気にしていなくて、極端な話、第1部で上手くいかなかれば、そこでやめても良いっていうくらいの気持ちだったんです。それに、製作費についても考えてなかったですね。やっぱり決め手は2人のプロデューサーの人となりです」

──本作では豪華キャストが揃いましたが、キャスティングに関しては何かアドバイスすることはありましたか?

「キャラクターのイメージがあるんで、ある程度、それぞれの範囲があったと思うんです。今回の製作委員会の方は、毎回相談してくれたんですよね。『このキャラクターは、この俳優さんに』みたいな感じで。実は、浦沢さんと僕の間でも、長い間議論しているんです。僕がこの人だと思うよというと、彼が嫌だって言ったりとか、その逆もあった。その僕らの議論の結果残っていた方達に出ていただいたので、良かったなあと思っています」

──では、今回のキャスティングは理想に近いわけですね。

「はい。理想的です。僕らの間では各々のキャラクターが誰と誰なら良いかというくらいまで絞れたんです。このキャラだったら、その中の誰が演じてもOKという場合もあれば、どうしてもこの人がいいということもあるわけです。もちろん、すべてのキャラクターに何人も候補がいたわけではありませんが、主役の3人に関しては『この人!』っていう感じでしたし、たとえばヨシツネ役の香川さんは僕はどうしてもやってもらいたかったし、佐野史郎さんのヤン坊・マー坊とか、佐々木蔵之介さんのフクベエなんかもどうしてもっていうのはありましたね。キャスティングに関しては、全てというわけではないですが、比較的プロデューサーの方と意見が合ってましたね」

ケンヂにとっての やらなくてはいけないこととは?
ケンヂにとっての やらなくてはいけないこととは?

──映画化に際して、「絶対にやらなくては」と思っていたところは?

「この作品の精神って、普通の人が人生において一回だけ、どうしてもやらなくてはいけないことがあるとこなんです。そこを映画としては強調して欲しかったですね。普通の人が地球を救うっていう話ですからね。そして、普通の人が凄い人になるまでの過程を演じてくれる役者さんが必要だったんです」

──メガホンをとるのが堤幸彦監督ということに関しては、いかがでしたか?

「7年くらい前、今ほど堤さんが有名ではなかった頃に、僕が原作を書いたある漫画を映画化したいという話があって、一度お会いしたことがあるんです。その企画は色々な事情があって、没になりましたが、そのときにお話して、凄くクリエイティブな方だと思っていたので、『20世紀少年』の監督の候補に挙がったときには、『この人はいいよ』って浦沢さんに話したのを覚えてます」

──本編観賞後に「心地よい敗北感を味わった」そうですが、どういった点で負けたと感じたのですか?

「負けたっていうのではなくて、漫画に映画が勝てないだろうっていう、しかも勝てないために漫画をやっているんで、勝たれるとちょっと悔しいんですって意味だったんです。
今回は引き分けで、映画もいいところまでいっちゃったなっていう嬉しさと一種の敗北感ですかね。スタッフの皆さん、よくここまで作ってくれたなと思います」

>>長崎尚志氏インタビュー その2

インタビュー4 ~企画・脚本の長崎氏が語る、漫画から映画への変換の苦労とは?(2)
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