劇場公開日 2008年8月30日

20世紀少年 : インタビュー

2008年8月27日更新

長崎尚志氏インタビュー

子供時代の出来事が、現代、そして未来へとつながっていく……。
子供時代の出来事が、現代、そして未来へとつながっていく……。

■脚色について

──今回の脚本は難航を極めたそうですが、どのあたりが映像化できないと思っていたのでしょうか?

「まずストーリーに、子供時代があって、大人時代がある。しかも大人時代は97年と未来の2つの時代があるので、錯綜するじゃないですか。さらに突然ロボットが出てきて、東京を壊してしまうんですよ。どう考えても無理じゃないですか、そんな映画(笑)。ストーリーの複雑さとセットの大きさ、キャラクターの多さで難しいなと思ってたんです。構成の面でも入り組んでいるし、突然SFになるわで、『どう撮るのよ』って思っていたんです」

──今回は浦沢さんと共に脚本を担当されています。脚色するにあたって注意したのは?

「漫画の作り方って、毎回18枚から20枚くらいの枠の中で、最初にわかりやすくてつかみのいい導入部を作って、最後に次話を読ませたくなるようにしなくてはいけないんです。要するに1回1回が読み切りの短編で、それを10話分くらいまとめて、さらに単行本としても1話と計算して構成しているんです。それは本業だから出来るんですが、映画の場合は、2時間強の間に山を作って、落として、また山を作ってという具合に、まったく作り方が違うじゃないですか。でも漫画の中では、エピソードひとつひとつに理由があるんで、中々切るに忍びない。どこを切ってどこを使うかとか、どこを映画版オリジナルとして書き足すかっていうのは、やっぱり悩みましたよね。結果6年近くかかっていますから、実は」

第1章のクライマックスとなる「血の大みそか」
第1章のクライマックスとなる「血の大みそか」

──第一章は、コミックの初めから「血の大みそか」までと決めていたのですか?

「そんなこともなくて、話し合って行く中で、この辺だよねっていうことで落ち着いたんです。要するにあの原作の長さでは3部作でも入らないんです。原作者サイドとしては、絶対に全部が入らないことがわかるわけです(笑)。どこでどう切って、どうつなげていくのかっていうことから始まったんですけどね。最初は本当に雲をつかむような話でした。なかなか決まらないし、どうなるんだろうっていう感じでした」

──今回、この映画の脚色をしてみて、漫画でしか描けないところと、映画でしか描けないところの違いは何か発見しましたか?

「漫画っていうのは、せいぜい漫画家と編集者、僕のようなプロット作成者、または脚本家といったような感じで、多くても4人くらいで出来るわけです。もちろんリスクを背負っているのは出版社ですけど、その作品が商売にならなければ、すぐにその作品を打ち切ることが出来るので、実はリスクは少ないんです。だから何でも出来る。漫画家とアシスタントが頑張れば1億人は無理だとしても1000人くらいの群集も描けるわけですよね。だけど、映画でそれは難しい。それがまず漫画側のいいところですよね。ただ、漫画って止まった画なんで、コマからコマへの動きは読者が想像して読んでいくんです。ある意味、読者に想像を強いる芸術なんですよ。映画っていうのは画が動くじゃないですか。たとえば、東京を壊すロボットのシーンは、僕ら漫画の人間にとっては、ロボットが暴れる画を描いても面白いとは思えない。登場人物が出てきて台詞を言うということがいわゆる見せ場なんです。でも、映画の方にとっては、その人間の部分ももちろん面白いけど、ロボットが動くのも面白いわけです。それはある部分ではわかるんだけれども、ある部分ではわからない。だから、違いを理解し合うことに苦労しました」

長崎氏が一番面白いと語る、 地下に潜って戦うレジスタンスたちの物語
長崎氏が一番面白いと語る、 地下に潜って戦うレジスタンスたちの物語

■ストーリーについて

──「20世紀少年」は、ある意味レジスタンスものになるわけですけど、こういったストーリーは昔からやりたかったのでしょうか?

「基本的に、レジスタンスものが一番面白いじゃないですか。権力者がいて、それに対抗して地下に潜って戦うってカッコいいですしね。面白い物語の基本のような気がします。イギリスのバロネス・オルツィという人が20世紀初頭に書いた小説で『紅はこべ』というのがあるんですけど、フランス革命のときに、その紅はこべっていう謎の人物がフランスからイギリスに人を逃がすっていう話で、ああいったパターンは絶対にお客さんが喜ぶんですよ。それに仲間を揃えて、戦うっていうのもパターンで、今回の第1章はいわゆる友情ものですよね」

──当初、浦沢さんのアイデアでは敵は巨大な怪獣だったそうですが、なぜ宗教団体を敵に設定し直したのでしょうか?

「浦沢さんって、割とシュールなことを言う人なので、僕がついて行けなかったんで(笑)、宗教団体にしようって提案したんです。そしたら、彼は最初嫌がったんですが、話すうちに、そっちの方がいけるかなっていうことになったんです。発想としては怪獣でも良いと思うんですが、少し似ている漫画もあったので、宗教団体に決定しました」

長崎氏の提案で“敵”となった 宗教団体の教祖“ともだち” とスポークスマン万丈目(下)
長崎氏の提案で“敵”となった 宗教団体の教祖“ともだち” とスポークスマン万丈目(下)

──宗教団体を出したのは、オウム事件などの後で、やはり時代とのシンクロニシティみたいなものを考えてのことなのですか?

「それは、あまり考えていなかったですね。ただ、僕らが高校大学のころって、新興宗教がブームだったんですよ。そういうのが根っこにあると思います。とんでもないことをやったり、今でも立派に存続して信者さんを増やしているとか色々あってね」

──敵である“ともだち”のことはあまり描かずに、ストーリーが進みますが、やはり意図的なのですよね。

「教祖っていうのは、基本的に、あまり喋らない方が箔がつくんですよ。本来なら人前に出てはいけないんです。普段はあまり喋らず、突然何かをパッと言うのがカリスマなわけです。必ず宗教っていうのは、影に隠れて一番偉い人がいて、次にスポークスマンがいて、彼は普通の人との中間で、結構俗っぽいっていうパターンです。それは全宗教団体に共通しているんです。万丈目も、そういうキャラクターになっているでしょ」

──今回「20世紀少年」の映画に携わったことによって、また映画の脚本に携わりたいと思っているのでしょうか?

「実はもうすでに何本か話は頂いていて、やらなくちゃいけないんです。(映画だと)何かいろんな人がいろんなことを言うから大変ですよね(笑)」

──気になる脚本家、好きな映画監督は?

「結局、ビリー・ワイルダー、ウィリアム・ワイラー、フランク・キャプラあたりになりますが、現役だと『L.A.コンフィデンシャル』のブライアン・ヘルゲランド、『10億分の1の男』『28週後...』のファン・カルロス・フレスナディージョあたりに注目してますね」

──ハリウッド映画の構成も、プロットを作成する上で参考にするのですか?

「僕が好きなものって、ハリウッドよりもヨーロッパ系で、ドイツとかスペインとかイギリスあたりの凄く面白いんだけど、あまり知られていないような映画の構成を結構参考にします。ハリウッド映画を参考にするということはあまりありませんね。人に知られていないビデオを海外で買ってきて見るのが好きなんですよ」

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