劇場公開日 2008年8月9日

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「暗黒の騎士 正義の本質とは何か」ダークナイト Moiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0暗黒の騎士 正義の本質とは何か

2025年5月14日
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鑑賞方法:映画館、VOD

感想

脚本・演出◎
映画としてのバットマンシリーズは80年代より10年単位でその時代の人気監督により作品が多数製作されており、21世紀に入り全く新しい要素を内包するバットマンの創出が製作会社から強い要求として制作サイドにあった事は間違いない。

本作はそれまでの既成のコミックス・ヒーロー映画の概念を根本から覆し破壊してしまう程の革新的な話の内容となっている。脚本も兼任したクリストファー・ノーラン監督の考えるプロットには物語の根本において人間の本質論が色濃く反映されており、人間心理に於ける正義と悪の捉え方には百人百様、人の立場により変わる身勝手な大小の感情の波があり問題に関わった人それぞれが持つ倫理観が時には立場を超えて浮き彫りにされる。それまであったコミックスとしての勧善懲悪的なバットマンの明るいヒーロー像が霞んでしまう程の衝撃を映画を観た観客に与えてしまったのである。

ここまで映画を観る者の感情を人間的に揺さぶる脚本と是々非々の行動を取るキャラクター設定と複雑な人間関係を描いたアメコミ映画は後にも先にも無く、本作含む全三部作の登場は、それ以降制作されるアメコミ映画の制作意図を根本から大きく揺るがし、「マン・オブ・スティール」など後に製作される全作品に脚本と物語の描写方法の再改編が為された事は明らかである。

配役◎
特にその演技力が秀逸であり死亡後アカデミー助演男優賞受賞の栄冠に輝いたヒース・レジャー扮するジョーカーの社会のシステムを破壊する悪事≒至上の幸福感、金品にも変え難い偏りのある多幸感、悪事を働く事が彼の生きがいであり、その極めて屈折した異常な人間心理を垣間見せ、心が屈折した人間が持つ鋭く恐ろしい程の観察眼と悪魔の様な誘惑を克明に表現している。人間の心底にある物欲に始まる私利私欲、猜疑心、嫉妬心、反抗心を巧みに利用して心を揺さぶり犯罪に誘導する行動や言動等、的確で秀逸なヒース・レジャーの演技表現が誰でもその状況と立場に置かれれば過ちを犯してしまうのでは?という恐怖の感覚を観客に意識させストレスに満ちた落ち着かない心理状態にさせる効果を創り出す事にも成功していた。それだけにヒース・レジャーの突然の訃報は更に驚きを持って人々に受け止められ、本作の最後にその名が追悼されクレジットされる事にまでになったと感じる。

ブルース・ウェイン=バットマン(クリスチャン・ベール)は孤高の幼少期を経て執事のアルフレッド(マイケル・ケイン )の含蓄ある助言と今や強大な政治的社会悪にもなり得る程の軍産複合体であるウェイン産業の技術部門を取り仕切るフォックス(モーガン・フリーマン)の技術助力を受けゴッサム・シティに蔓延る悪を実力行使を以って殲滅していく。

本作の他本作と同監督のバットマンに成るまでの前日譚である「バットマン ビギンズ」でクリスチャン・ベールは不慮の犯罪に親子で巻き込まれ孤児となったブルースの身体的、精神的成長を深い人間性を持って演じている。

更に最終話である同監督作品「ダークナイト ライジング」では正義の本質はこの身をsacrificeする事も厭わない行動が最も重要な事でその行動から自身の屍を超えていく真の「暗黒の騎士」(新しいヒーロー)が誕生する事を確信するも、世界から悪は決して滅びる事はないという社会的・精神的矛盾と絶望に悩む人間的なヒーローをまさに身体を張った演技で表現していた。

ゴッサムシティの警察官ジェームス・ゴードン
(ゲイリー・オールドマン)は汚職が蔓延る組織の中でも法と正義を重んじる優秀な警察官であるが、ある日突然コンタクトを取ってきた正体不明のコウモリの姿をした男(バットマン)から有力な情報を得る。手段と方法を選ばない悪への対処を断行するバットマンに対して当初は懐疑的であったが、法の元でも裁けない不祥の悪事を強く意識した後にバットマンの掲げる正義と悪の殲滅の実践を「暗黒の騎士」の行動として応援していく立場となる。自身と家族を含めて犯罪に巻き込まれるも、自分なりの正義を貫きバットマンからも信頼されている。物語の最後に実はゴードンが災難と不幸のどん底にあった若き日のブルースに施した何気ない優しさが後にブルース自身が正義を掲げ悪を殲滅することを志す切っ掛けとなっており身体、精神的な成長を遂げてバットマンとなったエピソードが涙を誘い感動する。

レイチェル・ドーズ (ケイティ・ホームズ、マギー
・ギレンホール Wキャスト)はブルースの幼馴染。頭脳明晰、聡明な悪を憎む検事である。バットマンと深く関わるうちにブルース本人である事を認識。やがて恋仲になるも立場の違いから別離。正義を標榜し行動するハービー・デントとの交際をはじめる。様々な悪人にデントのアキレス腱として命を狙われる。

ハービー・デント(アーロン・エッカート)検事はゴッサムシティの正当な正義を擁護出来る指導者となり得る事をブルースは予見しバットマンとして自らの身を引く覚悟を一旦は考える。悪を憎み法による裁きと社会的秩序を重んじる人物であったが、汚職に塗れた組織の裏切りにより最愛の人であるレイチェルを失い更に顔面に酷い傷を負う事で助け出す事が出来無かったバットマンに個人的な憎しみを抱き、さらに自分を裏切った近親者に死に依る復讐を果たす行動に出る。彼の犯した罪はバットマン=「暗黒の騎士」が全て被る事となり、その瞬間に真の正義が持つ資格を失ってしまった悲劇の英雄となる。

サイコパスであり二重人格者のクレイン博士/スケアクロウ(キリアン・マーフィー)は初期のバットマンを心理操作と薬物で苦しめる。ジョーカー、ベインの元で悪の手先として働く。オッペンハイマーでアカデミー主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィーが印象的に演じている。

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監督・脚本 クリストファー・ノーラン
脚本 ジョナサン・ノーラン

ブルース・ウェイン=バットマン
(クリスチャン・ベール)

アルフレッド (マイケル・ケイン )
フォックス (モーガン・フリーマン)

ゴードン (ゲイリー・オールドマン)
ジョーカー (ヒース・レジャー)
スケアクロウ (キリアン・マーフィー)
ハービー・デント(アーロン・エッカート)
レイチェル・ドーズ
(ケイティ・ホームズ、マギー・ギレンホール)

セリーナ・カイル/キャットウーマン
(アン・ハサウェイ)
ベイン (トム・ハーディ)

ジョン(ロビン)・ブレイク
(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)

ラーズ・アル・グール(リーアム・ニーソン)
影武者ラーズ・アル・グール(渡辺謙)

クリストファー・ノーランの監督したバットマン三部作は全作を通してコミックスのヒーロー物エンターテイメント要素をきちんと持ちながら描きつつ、さらに想像を遥かに超えた深い人間的洞察と心理描写がなされておりその制作意図に感服した。

三部作全ての総合評価として

⭐️5

Moi
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