天使と悪魔 : インタビュー
前作「ダ・ヴィンチ・コード」に続いてメガホンを取ったのは、もちろんこの人、ロン・ハワード。今年は「フロスト×ニクソン」で2度目のアカデミー監督賞ノミネートも果たしたことも記憶に新しいが、観客と批評家双方から高い評価を受ける作品を作るハワード監督が本作に込めた思いとは?(取材・文:編集部)
ロン・ハワード監督 インタビュー
「映画を見た人が議論し、批判するのも楽しみのひとつだと思う」
――毎回、キャスティングはどこにポイントをおいているのでしょうか? 特にトム・ハンクスとは何度も仕事をし、絶大な信頼を置いているようですが。
「こういうジャンルの映画の場合は、人物をゆっくり時間をかけて描くことができない。短い時間の中で、セリフ一行で人物をわからせなければいけないから、技術のあるいい俳優を起用する。今回も、トム・ハンクスはもちろんだけど、脇の俳優も主役を張れるだけの実力をもった人たちばかりだ。トムとは何度も仕事してるけど、『ダ・ヴィンチ・コード』の時に彼がラングドンに興味を持ってくれたのは、とてもラッキーだった。ラングドンっていうのは本に埋もれた人で、およそスリラー作品のヒーローには相応しくない。そんな彼が、専門知識があるばかりに激しく危険な状況に巻き込まれていく。そこがこのシリーズの面白いところだけど、観客がラングドンと一緒になって体験しているかのように感じさせることができるのが、トムの魅力だね」
――「ダ・ヴィンチ・コード」は世界中で物議を醸しましたが、そうした作品に携わる気持ちとは?
「僕は決して自ら論議を求めたり、扇情的なことを言って正面対決を好む人間ではない。しかし、『ダ・ヴィンチ・コード』のような問題作を作ったことで自らそこに足を突っ込んでしまったわけだが、『ダ・ヴィンチ・コード』を製作する際に、賛成派、否定派の中間に立って、両方を考えながら撮ったことは、僕の人生において非常にプラスになったと思ってる。『ダ・ヴィンチ・コード』を作るとき、尊敬するある人に、これは物議を醸すからやめたほうがいいとアドバイスをもらったこともあったが、この世の中の全ての人を喜ばせることは不可能だ。これは人を怒らせるかもしれない、万人を喜ばせることはできないかもしれないということを認識して映画を撮ったのは、あれが初めてだった。でも、たとえある一部の人を怒らせるかもしれないとしても、それをやることがストーリーテラーであり、映画監督であると考えた。そういう認識ができたからこそ、ラングドンシリーズや『フロスト×ニクソン』もできたと思ってる。自分の信じることをポジティブに映画の中で表明し、かつ娯楽的な映画を作る。これが僕の監督としての今後のポリシーになっていくと思う」
――世界的ベストセラーを映画化するという上でプレッシャーになることは?
「観客も批評家も、小説を読んだ上でそれぞれの思い入れやイメージがあり、それだけ批判が多くなるというのは覚悟の上だった。中には私の選択に不満を抱く人も当然いる。しかし、そうした批判を受けることがわかっていても、やりたいと思った作品だし、僕が思うに、映画を見た人が、それぞれにディスカッションするのがまた楽しいし、批判するのも楽しみのひとつなんじゃないかなと思う」
――たくさんの選択肢がある中で、題材を選ぶ基準などはあるのでしょうか?
「自分でアイデアが浮かぶ場合と、誰かから企画が持ち込まれる場合とがあるけど、どちらにしても、まずはパッと自分がそれに食らいつくかどうか、要するに直感的なものだね。共感できるものであったり、もしくはまったく知らないものでも、好奇心を煽られるものがいい。そこからストーリーはどうするか、ビジュアルは、キャラクターはと膨らませていく。それから、それらのアイデアを多くの人に語ってみて、興味を持たれないものはダメだし、話を聞いてくれるものは、映画としてみんなが見たいものになるんじゃないかなと思う。今回で20本目の監督作になるけど、いま言ったような手段で題材を選んだとしても、それが市場にどう適応するか、商業的にどうなのかというのは僕は苦手だから、そこは(プロデューサーの)ブライアン・グレイザーに任せてるよ(笑)。そこは彼の方が長けているからね。ただ、『天使と悪魔』に関して言えば、『ダ・ヴィンチ・コード』があれだけ成功したから、ラングドンの冒険をもう一回見たいと観客が思っているだろうという思いはあったし、原作から『ダ・ヴィンチ・コード』以上にインパクトのあるものができるという思いもあったしね」